写真●展示会場でも健康・医療に関する展示が行われた
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 富士通フォーラム2013東京(2013年5月16~17日、東京国際フォーラムで開催)のソーシャル・イノベーションセミナーで、京都包括ケア推進機構の高野憲一氏(京都府健康福祉部高齢者支援課地域包括ケア担当課長)が、クラウドコンピューティングを活用した高齢化社会での地域包括ケア推進について講演した。同機構が構築・運用した「在宅療養あんしん病院登録システム」は、住み慣れた地域での在宅療養を希望する高齢者に対して、在宅療養が困難な状態になった際に、病院での受診や入院を円滑に実施することを可能にしている。

 京都府では医療・介護・福祉の各制度は互いに連携しておらず、それぞれのサービスが独自に提供されている。高野氏は、「各サービス間の連携不足から情報の収集が困難で、在宅療養を続ける環境を作り出せていない。さらに、地域包括支援センターでは人手不足で多忙を極めている。業務の7割が介護予防プランの作成に費やされ、包括的・継続的なケアマネジメント業務に手が回らないのが現状」と京都府が抱える課題を指摘した。その解決のために、「関係団体が一丸となったオール京都体制で地域包括ケアを実現するため、2011年6月に『京都地域包括ケア推進機構』を設置した」と述べた。

 同機構では現在、7つのプロジェクトを設置・推進している。その一つ「在宅療養あんしんプロジェクト」で取り組んだのが、「在宅療養あんしん病院登録システム」だ。目的は、高齢者がかかりつけ医の協力により病院を事前登録することで、体調不良などが起きたときに病院への早期アクセス・早期治療を可能にすること。早期対応を実現することで、結果として早期退院につながり、在宅療養を維持できる。高野氏は、「入院した高齢者が在宅に戻れないことが、最大の問題。早く自宅に帰れるよう支援していくことが重要で、そのための“退院システム”と位置付けている」と説明した。

「在宅療養あんしん病院登録システム」は、在宅療養をしている高齢者(65歳以上)が、かかりつけ医を通して本人情報と入院が必要になったときの希望病院(知事が指定する在宅療養あんしん病院)を登録し、利用者・かかりつけ医・病院の関係者が閲覧できるようにしたもの。「在宅療養あんしん病院として134病院が指定されており、高齢者が入院できる病院の9割以上をカバーしている。また情報登録の際には、かかりつけ医の署名が必要。署名がない申請は受け付けられない」(高野氏)という。

 情報の登録・閲覧は、富士通のクラウドソリューションの1つであるSaaS型統合CRM(顧客関係管理)アプリケーションサービス「CRMate」を利用した。機構設置から5カ月後の2011年10月末までに在宅療養あんしん病院を指定し、12月1日から登録申請書の受け付けを開始、翌年1月1日から利用開始している。「われわれが求めたのは、短期間で高齢者情報をデータ化できるシステム。議論を重ねながら内容が変貌する中で、システム資産を所有しないこと、収集データはデータセンターで一括管理すること、個人情報保護へのセキュリティ面の担保という点を重視した」(高野氏)と述べた。

 現在、登録者数は約6000人で目標を若干下回っている。高野氏は「当初、かかりつけ医や病院関係者、府民がどのように反応するか、地域でのトラブルが生じないか非常に不安だった。そのため、登録申請書はかかりつけ医と在宅療養あんしん病院だけに置き、窓口を狭めて慎重に利用を開始した」と説明する。昨年末からは地域包括支援センターや訪問看護ステーションなどにも登録申請書を置き、関係者のシステムへの参加意欲を醸成しながら、周知活動に取り組んでいる。「近い将来に、救急体制や電子カルテ情報とのリンクを視野に入れている。また、看取り支援ツールとしてどういった役割を果たせるのか模索していきたい」(高野氏)と結んだ。