写真●研究チームが開発した、電流励起でボーズ・アインシュタイン凝縮体を生成できる半導体マイクロ共振器
写真●研究チームが開発した、電流励起でボーズ・アインシュタイン凝縮体を生成できる半導体マイクロ共振器
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 国立情報学研究所は2013年5月15日、同研究所と米スタンフォード大学、独ウルツブルグ大学の研究チームが、半導体デバイスに電流を流すことでボーズ・アインシュタイン凝縮体を生成することに初めて成功したと発表した。この成果は5月16日付の科学誌「Nature」に掲載される。

 光トラップや光励起といった現象を組み合わせる従来の方法と比べ、より単純な装置でボーズ・アインシュタイン凝縮体を生成できる。消費電力が低いコヒーレント光(位相のそろった光)の光源への応用が期待できるほか、量子コンピュータや量子シミュレーション、量子計測といった分野に応用できる可能性があるという。

 研究チームは今回、電流励起で「ポラリトン」と呼ばれる粒子を連続生成できる、特殊なpn接合を持つ半導体マイクロ共振器を開発した(写真)。そのポラリトンが共振器の中でボーズ・アインシュタイン凝縮を起こしていることを、実験で確認した。

 ポラリトンは、電子とホールが結合した励起子が、さらに電磁波と結合した「準粒子」である。水素原子やポラリトンのようなボーズ粒子を低温、高密度の条件下に置くと、全ての粒子がエネルギー最低の状態に落ち込む「ボーズ・アインシュタイン凝縮」を起こす。特にポラリトンは、見かけの質量(有効質量)が励起子の1万分の1と軽いことから、比較的高い温度でもボーズ・アインシュタイン凝縮を起こせる。今回の実験では、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こしたポラリトンの温度は約25Kだったという。

 これまでも、半導体デバイス中でポラリトンのボーズ・アインシュタイン凝縮を実現した例はあったが、ポラリトンの生成にはデバイスの外から光を当てる「光励起」を用いていた。今回、素子の構造を工夫することで、電流励起でもポラリトンのボーズ・アインシュタイン凝縮体を連続生成できるようになった。

 このデバイスに電流を流してポラリトンを生成すると、連続的にコヒーレント光を出力するため、半導体レーザーのようなコヒーレント光源としても使える。ボーズ・アインシュタイン凝縮が起こったポラリトンは物質波の位相がそろった状態となり、このポラリトンが連続して崩壊することで位相のそろった光(コヒーレント光)を取り出せるという原理だ。

 この光源は半導体レーザーに比べて、発振しきい値電流が100分の1程度に抑えられる。このため、低消費電力のコヒーレント光源として使えるという。