写真1●電子お薬手帳について説明する内閣官房 情報通信技術(IT)担当室の有倉陽司内閣参事官
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写真2●日本のICTの実力について解説する総務省情報流通高度化推進室長の吉田恭子氏
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写真3●保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)普及啓発等事業の概要
写真3●保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)普及啓発等事業の概要
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写真4●日本のEHRについて解説する経済産業省ヘルスケア産業課課長補佐の井上美樹代氏
写真4●日本のEHRについて解説する経済産業省ヘルスケア産業課課長補佐の井上美樹代氏
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 2003年4月から活動を続けてきたNPO法人 日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)が、NPO法人 医療福祉クラウド協会(Medical Welfare Cloud Association =MeWCA、ミューカと発音)と名義変更をする(現在変更手続き中で、正式な変更は6月中予定)。それを記念するシンポジウムが、2013年5月9日に都内で開催された。

 まず、MeWCA理事長に就任する愛知東邦大学人間学部人間健康学科教授の御園慎一郎氏が挨拶。続いて、4省庁の幹部が医療福祉分野の取り組みについて説明した。

 内閣官房 情報通信技術(IT)担当室の有倉陽司内閣参事官は、「IT戦略における医療情報化の検討について」と題して講演した(写真1)。高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)に簡単に触れた後、国民が自分の健康情報をネット上で管理・閲覧できる「どこでもMY病院」について解説し、今年2月から大阪府箕面市内の20件の薬局で、電子版お薬手帳サービスである「大阪e-お薬手帳」の実証実験を開始したと発表した。5月に結果を検証し9月から府内で事業の運用を開始する予定。実証実験の内容は、(1)ICカード搭載スマートフォンを利用した服薬情報の取り込み、(2)二次元バーコードとカメラ機能を利用した服薬情報の取り込み――である。

 続いて、医療情報の流通における標準的なアーキテクチャの策定活動について解説した。2011年にまとめた「医療情報化に関するタスクフォース報告書」を基に、(1)地域連携ネットワークどうしが接続するための標準規格の整備と普及、(2)地域連携ネットワークの方式やセキュリティポリシーの違いを吸収・制御するための個人ID管理、利用者や施設の身障などの基盤機能の構築、(3)災害など緊急時でも過去の診療情報を参照して医療サービスを提供するためのバックアップの構築・活用ルールの整備――を進めていくとした。

 有倉氏は「昨年度に調査した結果、計画中や構築中を含めると160件の地域医療連携ネットワークがあることが分かった。互いに連携をとって情報をやり取りできるように、標準化を進める必要がある」と語った。また、新たな戦略の素案を議論・検討するための「IT戦略起草委員会」を設置し、今年4月から活動を開始していること、5月以降に新戦略の決定を予定していることを説明した。

 続いて、総務省情報流通行政局 情報流通高度化推進室長の吉田恭子氏が、「医療ICTに関する総務省の取組」と題して講演した(写真2)。吉田氏は「日本のICT基盤は世界の最先端にあるが、利活用の面で遅れが見られる」と指摘し、さらに「どんなデータを共有すればいいか、使いやすいインタフェースはどんなものかなど、これから決めて行かなくてならない」と付け加えた。

 続いて、過去の健康情報活用基盤構築事業の例として、処方箋の電子化(香川県高松市)、医療介護連携(広島県尾道市など)、共通診察券(島根県出雲市・大田市)、在宅医療・訪問看護連携(宮城県石巻市、東京都内)などを説明。「同意書をどう取得するか、コスト負担をどうするかなど、様々な課題が見つかった。全国にバラバラのものを作るのではなく、最低限度のつながりを実現するような共通化を進めていかなければならないと考えている」と述べた。

 新たな施策としては「ICT超高齢社会構想会議」を紹介。4月にミッションとして「スマートプラチナ社会」の実現、という基本提言を発表したと説明した。ICT健康モデルの確立、医療情報連携基盤の全国展開、ライフサポートビジネスの創出、ロボット×ICTの開発・実用化など9つのプロジェクトを進めていくとした。

 厚生労働省医政局 研究開発振興課 医療技術情報推進室長の渡辺顕一郎氏は、同省が進めている取り組みについて解説した(写真3)。新規事業として2つの取り組みを紹介。(1)保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)普及啓発等事業(今年度予算案:6260万円)は、電子署名や電子認証による診療情報の安全な交換・参照を実現するもの。本当に医師が作成した書類なのか、情報を申請しているのは患者本人なのか、などを電子的に証明する基盤を作る目的がある。(2)ICTを活用した地域医療ネットワーク事業(同7540万円)は、標準化されたデータを地域のデータ蓄積サーバーに保全するためのネットワークを構築し、医療圏や都道府県単位で連携を進めていく。

 このほか、前年度から引き続き実施する事業として、用語・コードの標準化を前提に病名や医薬品などのマスターデータを整備する「高度医療情報普及推進事業」(同3635万円)、診療ガイドラインなど最新医学知識をネットで閲覧可能にする「EBMデータベース事業」(同1億4965万円)、二次医療圏や都道府県を超えた患者情報共有ネットワーク基盤のモデルを構築する「シームレスな健康情報活用基盤実証事業」(同9019万円)、ネットワークを介して病理画像や患者のX線画像などの読影支援や、往診や通院が困難な患者に対してテレビ電話などの機器貸与を実施する遠隔医療設備整備事業(医療施設等設備整備費補助金のメニューの一つ)を挙げた。

 経済産業省商務情報政策局 ヘルスケア産業課課長補佐の井上美樹代氏は「経済産業省における医療情報関係施策等について」と題して講演した(写真4)。井上氏は日本の地域医療連携に関して、「先に病院が独自にIT化を進めて、その後地域連携の動きが進んだ。諸外国とは順番が逆で、これがデータの標準化などのハードルを上げてしまう結果となった」と分析した。日本のEHR(Electric Health Record)あり方としては、医療機関と介護施設や調剤薬局との連携、在宅医療を考慮し医師と訪問看護師、ケアマネージャーとの連携、個人に情報を集約したうえで様々なサービス産業との連携(PHR、Personal Health Record)などを図っていく必要があるとした。

 また診療情報を病院の電子カルテと地域医療連携システムに別々に入力する二重入力が常態化している現状では、医師の負担が大きすぎると指摘。「ベンダーの協力を得るなどして、これを何とか解決しなければいけない」と力説した。ベンダーに対しては「日本のベンダーは底力がある。海外に日本の実力を見せられるような技術開発を期待したい」とエールを送った。