東日本旅客鉄道(JR東日本)がグループを挙げて、駅改札以外でのSuica(スイカ)利用の促進を進めている。2013年3月23日からは、Suicaを含む全国の交通系ICカード10種類の相互利用が始まったところだ。そのタイミングに合わせて、花見客や春の行楽客でごった返す東京のJR上野駅では、改札を出たところにあるコンビニエンスストア「NEWDAYS上野新浅草口」で3月1~26日まで、自分で会計を済ませるセルフレジ(関連記事:JR東日本リテールネット 駅コンビニにSuica対応セルフレジが登場)を使うと、10%割引になるSuicaの利用キャンペーンを実施した。

写真1●JR上野駅構内に設置している、Suica利用の「キャンペーン端末」とクーポン
写真1●JR上野駅構内に設置している、Suica利用の「キャンペーン端末」とクーポン
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 また、3月15日から4月14日まで、上野駅のエキナカに設置したSuicaの「キャンペーン端末」に、Suicaで300円以上買い物をしたうえでタッチすると、クーポンなどが当たる販促も実施中だ(写真1)。

 実はこれらのキャンペーンの背景には、JR東日本が1年前の2012年4月から進めてきた、Suica利用促進に向けた調査研究の結果がある。

 「行動観察」と呼ばれる手法を用いて、グループのJR東日本リテールネットが運営するNEWDAYSでのレジ会計時のSuica利用を実地で調べ上げた。平均すると、コンビニレジでのSuica利用率は駅改札の半分にも満たなかった。そこで利用率を少しでも高めて、レジ通過の効率を上げようとしている。

 エキナカや改札近くのNEWDAYSは、朝晩のラッシュ時やそれこそ花見客が殺到する休日ともなると、店内は身動きが取れないほどの大混雑になり、有人レジに長蛇の列ができる。このレジ待ちを解消する手段として、JR東日本は自社のSuicaを活用しようとしている。

 それには、Suicaを使った方が会計が速く済むことを顧客に知ってもらい、積極的に使ってもらわなければならない。現状では、改札でSuicaを使う人でも、コンビニでは使わない人がまだまだ多い(関連記事:暗算不要でKIOSKを立て直し、「立地安住」の意識を笑顔で改革 JR東日本リテールネット)。

先入観を捨て、現場に立って顧客を観察

 行動観察では、現場での目視やストップウオッチによる直接観察と、カメラを設置しての映像による観察の2つを実施した。先入観を捨て、まっさらな気持ちで顧客を見たままに観察するのが、行動観察の特徴である。調査は、大阪ガス行動観察研究所が協力して、2012年春に実施した。

 この調査結果に、NEWDAYSのPOS(販売時点情報管理)レジのデータ分析を加え、多面的に解析した。すると、現金とSuicaでのそれぞれの支払いにかかる会計時間の差や、レジに並ぶ人たちの消費行動が見えてきた。

 まず実測値として、レジでの現金決済とSuicaでの決済では、お釣りのやり取りがないSuica決済の方が、現金決済よりも約35%、会計時間が短いことが分かった。時間にして、10秒以上の違いになる。

 例えば、購入点数が3点の場合、現金だとレジにかかる時間(顧客がレジに商品を置いてから会計して立ち去るまでの時間)が29秒だったところ、Suicaだと17秒で済むという。

 また、POSデータを分析すると、購入点数が多くなるほど、現金で支払う人が増えることも分かった。この結果から「購入点数が増えて合計金額が多くなるほど、顧客はSuicaのチャージ残高が気になって、Suicaを使わなくなるのではないか」という仮説が立った。