2013年3月18日に都内で行われた「リーン・ローンチパッド勉強会」(関連記事:「大企業はなぜ愚かになるのか」、起業家教育のブランク氏が初来日で熱弁)では、「アジャイルプロセスを導入したソニーのタブレット開発」というタイトルで、ソニーでタブレット端末の開発に携わる石井眞氏(VAIO & Mobile事業本部 企画2部 統括部長)と佐藤晃一氏(VAIO & Mobile事業本部 Tablet事業部 ソフトウエア設計部 統括部長)が登壇した。両氏の講演は、ソニーがこの数年で製品化したタブレット端末の開発における手法を紹介したものだ。

 2人によると、同社のタブレット開発では、例えば「製品仕様よりも、顧客体験を重要視したマーケティング」「ネット企業が採用しているアジャイル開発」といった手法を採用した。

 同社がアジャイル開発を始めた背景の一つとしては、タブレット製品固有の事情がある。既存の製品と比べて、タブレット端末は具体的な利用シーンの見極めが難しい。このため、開発の途中で柔軟に仕様を変更していく必要があったのだ。

 当然ながら、社員の多くは「1年前に仕様を決めて、開発期間はその実装に没頭する」というウォーターフォール型の方法に慣れ親しんでおり、柔軟に仕様を変えていくというアジャイルプロセスに戸惑う社員も少なくなかった。このため2人は、マインドセットを変える必要があったと振り返る。社内ではユーザーの利用シーンを具現化したビデオや、ユーザー体験のたとえをまとめたプレゼン資料を用意したことなどを紹介した。

 扱う商品がハードウエアであるため、アジャイルプロセスには困難が伴う。具体的には、「品質確保の期間を設ける」「製品の情報を出さずに仮説と検証を繰り返す」といったものだ。

 「自分たちのアプローチは完成したものではなく、日々トライしている」とする両氏からは、「ユーザーインタビューを信じすぎず、潜在的な欲求を明確にする」「現場の空気感を、生の声として聞く」「アイデアはあくまで仮説であり、ゴールにしない」「動くものを早く作る」「捨てるものは捨てていく」といった、経験者ならではのアドバイスが語られた。