写真1●スティーブ・ブランク氏の講演の様子
写真1●スティーブ・ブランク氏の講演の様子
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 米スタンフォード大学などで教鞭を執り、「起業家教育の第一人者」として知られるスティーブ・ブランク氏が初来日し、2013年3月18日に東京都内で行われた「リーン・ローンチパッド勉強会」で講演を行った(写真1)。講演タイトルは、ITproで連載中のコラムと同名の「今こそ!シリコンバレーに学ぶ“興す力”」。新事業の開拓を目指す参加者に向けて熱い講義を行った。

 ブランク氏の起業家教育は、このところ急拡大している。スタンフォード大学から始まった同氏の講義は、米国サンフランシスコ近郊のカリフォルニア大学バークレイ校はもちろん、コロンビア大学など東海岸にも拡大。さらには政府機関の米国科学財団(NSF)経由での科学者向けの起業講座、教育者育成プログラム、オンライン教育など、とどまるところを知らない。

 今回の講演会の対象は「イントレプレナー」などとも呼ばれる企業内起業家である。ブランク氏も、今回のテーマや来場者にあわせ、大企業における新事業開発の勘所を示した。

多くの企業が新興勢力に震撼

 まず同氏が示したのは、大企業には人材や予算などのリソースが十分にあるにもかかわらず、「愚かになる」という事実だ。競合になるとは想像もしなかった企業から、急に新しい商品が出てくることがある。「Squareがクレジットカード会社の脅威になり、自動車業界はTeslaに怯えている」とする同氏は、既存企業が愚かになったのは「同じことをやり続けた結果」だという。

 同氏は「教育も混乱している」という。有名大学による無料のオンライン教育が広がる中、中堅校が震撼しているというのだ。ホテル業界も、自宅を貸し出すairbnbのようなサービスに脅威を感じているなど、多くの業界で老舗ブランドは革新的な新興勢力に脅かされている。

 これらの事実を踏まえ、ブランク氏は「マーケットリーダーは、イノベーター(革新者)ではない」とする。同氏は「マーケットリーダーとなる企業に、賢い人がいなかったわけではない。新しいモデルを探索し実行できる能力がなかった」とその理由を分析する。

 現在は、製品サイクルが短くなっている。既存企業はコスト低減を重視し、マーケットシェアを取りにかかる傾向があるものの、「今では、マーケット自体がなくなることもある」(ブランク氏)。「以前はライバルを蹴落とすことを考えればよかったが、現在はイノベーションを興し、常にマーケットを作り続けなければならない」(ブランク氏)のである。

 こうした時代に必要な能力として、ブランク氏は決断力と実行力を挙げた。iPhoneが登場した当時、ノキアが“マーケットシェアがゼロ”であることを理由に取り合わなかったため、iPhoneの台頭を許してしまった例を紹介。「同じようなものは、お金をかければ出来る」と言ったものの、それが実行に移されることがなかったというのだ。