日本マイクロソフトの業務執行役員 社長室長 シチズンシップリード 牧野益巳氏
日本マイクロソフトの業務執行役員 社長室長 シチズンシップリード 牧野益巳氏
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岩手県釜石市のNPO法人「@リアスNPOサポートセンター」の鹿野順一代表理事。同法人は、2004年から現地で活動する団体だ
岩手県釜石市のNPO法人「@リアスNPOサポートセンター」の鹿野順一代表理事。同法人は、2004年から現地で活動する団体だ
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@リアスNPOサポートセンターが開催した講座の様子。初期は、このように4人程度が1回当たりの定員だった。その後会場を拡大し、現在では1回に12人ほどが受講できるようになった
@リアスNPOサポートセンターが開催した講座の様子。初期は、このように4人程度が1回当たりの定員だった。その後会場を拡大し、現在では1回に12人ほどが受講できるようになった
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東北UPプロジェクトのSROI。第三者に評価を依頼した
東北UPプロジェクトのSROI。第三者に評価を依頼した
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NPO法人「育て上げ」ネットの工藤啓理事長
NPO法人「育て上げ」ネットの工藤啓理事長
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 日本マイクロソフトは2013年3月14日、2012年1月から実施してきた東北復興支援の取り組み「東北UPプロジェクト」の成果を報告した。ICTスキルの習得により就労機会を増やすことを目的とするプロジェクトで、このプロジェクトに参加して求職した人の45%が就労するなどの実績があったという。

 東北UPプロジェクトでは、被災者を対象にITスキル講習や就労支援などを実施した。講習のノウハウや資金を日本マイクロソフトが提供し、実際の講習の運営などは各地のNPOが行う。これにより「地元にノウハウが残るようにするのがキモ」(日本マイクロソフト 業務執行役員 社長室長 シチズンシップリード 牧野益巳氏)という。

 講習は、岩手県では釜石、大船渡、陸前高田、宮城県では石巻、福島県では会津若松、郡山で実施。福島県から東京に避難している人のコミュニティと連携し、東京でも開かれた。まず講師を養成するための講座が3回開催され、17人の講師を養成。こうした講師らによって開催された就労支援講座は300回にのぼり、のべ851名が講座を修了した。目標の500名を大幅に上回ったという。

 修了者のうち求職したのは、のべ426名。そのうち、のべ193名が就労したという。求職者の就労率は30%を目標としていたが、実際には45%の人が就労に結びついた。

 釜石市で講座の開催に携わったのが、NPO法人「@リアスNPOサポートセンター」。東北UPプロジェクトをはじめ、ヤフーやリクルートなどとも連携しながら雇用創出に取り組んでいる。代表理事を務める鹿野順一氏は、「講座の受講者からは、これから先のスキルアップ、キャリアアップに役立っているという声がとても多く上がっている。受講者が、もう一度何かをやるための自信を深めている、というところに喜びを感じる」と話す。講座は人気を博しており、「ほぼ毎回キャンセル待ちが発生している状況。想定以上に受講人数が多く、うれしい悲鳴だ」(鹿野氏)という。

 とはいえ、被災地の雇用をめぐる状況は単純ではない。「業種によっても状況は異なる。今の被災地の状況は、ひと言では言えない」と鹿野氏が語る通り、ITスキルさえ身に付ければすぐに雇用に結び付くとも限らない。ただし「パソコンのスキルは、あって当たり前という状況になりつつある。パソコンのスキルがなくてもできる仕事はあるが、あることによって生産性は大きく向上する」(鹿野氏)と意義を語った。

 なお、今回のプロジェクトでは、SROI(社会投資効果)と呼ばれる指標を用いて成果の評価を行った。SROIは事業の社会的価値を数値化するもので、欧米では広く用いられつつあるという。東北UPプロジェクトでは、投資額に対する効果額は4.46倍、効果額の推計は7555万5000円という結果になった。東北UPプロジェクトの運営事務局を務めたNPO法人「育て上げ」ネットの工藤啓理事長は「感情的には大切だと思われるものでも、金銭的な価値が分かりにくいものはある。効果が数字で見えないために資金確保がうまくいかない、といったケースもある」と話し、SROIのような評価指標がNPO法人の活動に変化をもたらす可能性に期待を示した。

 東北UPプロジェクトは、2013年3月末で終了する。日本マイクロソフトは今後も、自治体と協定を結び、災害時に自治体Webサイトのミラーサイトを立ち上げる取り組みを推進するなど、各種の復興支援活動を継続していくという。