写真●ヴイエムウェアの菊本洋司End User Computingシニアスペシャリスト(写真:井上裕康)
写真●ヴイエムウェアの菊本洋司End User Computingシニアスペシャリスト(写真:井上裕康)
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 「今までは、パソコンやスマートフォンといったデバイスに紐付く形でアプリケーションやデータを管理していた。これからはデバイスの違いを問わず、ユーザーにとって必要なアプリケーションやデータにアクセスできるようにする必要がある」。ヴイエムウェアでEnd User Computingシニアスペシャリストを務める菊本洋司氏(写真)は、今後の企業のエンドユーザーコンピューティングのあり方について、こう説明する。

 菊本氏は、企業PCにインストールされているアプリケーションのうち、WindowsやWebブラウザーの種類に依存しないものの比率が、2011年時点で半数を超えたという調査結果を紹介し、「もはやWindowsがなくても不自由しない」と指摘する。さらに、業務でPC以外のデバイスを使う割合が増えている一方で、PCの出荷台数がもはや伸びておらず現状維持であることを示す調査結果も紹介。アプリケーションとデバイスの両面で、企業のエンドユーザーコンピューティングが大きく変わり始めている状況を示した。

 こうした状況に、いち早く対応しているのが起業したばかりの新興企業である。菊本氏が実際にヒアリングした事例によると、新興企業では個人所有のスマートフォンやタブレットを社内ネットワークにつなぎ、業務で活用しているという。アプリケーションはPCへの個別インストールではなく、インターネット経由で利用できるSaaSで導入。ファイル共有もオンラインストレージサービスなどを利用している。社員は社内外を問わず好きな場所で仕事できる。

 一方、大手企業は会社が支給したPCしか使わせない。タブレットを使っている企業でも会社支給であるケースがほとんど。IDとパスワードが統合管理されていないため、社員はアプリケーションごとにIDとパスワードを管理せざるを得ない。社外へのファイルの持ち出しは原則認めていない。社内という限定したエリアでのみ使わせることで、セキュリティガバナンスをコントロールしようとしているのが、大手企業の現状である。

 このため、大手企業のエンドユーザーコンピューティングは、セキュリティこそ強固だが利便性や自由度が低い。新興企業は逆で利便性や自由度は高いがセキュリティ対策が不十分。この違いを踏まえて菊本氏は、「大手企業は現状のセキュリティを維持しながら、利便性と自由度を高める方向を目指すべきだ」とアドバイスする。ただし、目指すべき方向性へと移行したくても、現状では「個人所有のスマートフォンやタブレットなどのデバイスを企業のIT部門が管理できない」「Windowsアプリケーションといった既存資産の置き換えにはコストが掛かる」といった課題が立ちはだかる。

エンドユーザーコンピューティングの変革は段階的に進める

 そこで菊本氏は「段階的なアプローチ」を提唱する。第1段階は「PCに紐付くライフサイクルの分離」だ。これは仮想的なPCをデータセンターに配置しておき、手元のPCにはネットワーク経由で送られてきたデスクトップ画面だけを表示させることで実現できる。スマートフォンやタブレットにデスクトップ画面を表示するためのアプリケーションをインストールすれば、同じデスクトップ画面をあらゆるデバイスで利用可能になる。

 マルチデバイスに対応できる環境が整ったら、第2段階で「アプリケーションとOSの紐付けの分離」に移る。これは、アプリケーションのライフサイクルがOSのライフサイクルに依存してしまうという問題を解決するものだ。古いバージョンのOSでしか動作しないアプリケーションを、新しいバージョンのOSでもそのまま利用可能になる。

 こうした段階的なアプローチはVMware社の製品で実現できることを、菊本氏は講演の中でアピールした。例えば、第1段階はPC環境を仮想化する「Horizon View」や「Horizon Mirage」を使う。いずれの製品も、導入することでPC環境をデータセンター側で一元管理できるようになる。第2段階の実現に使う製品は、アプリケーションを仮想化する「VMware ThinApp」だ。VMware ThinAppはHorizon ViewやHorizon Mirageに含まれている。

 「アプリケーションとOSの依存関係を分離する段階まで進むと、働き方は大きく変わってくる」と菊本氏は話す。在宅勤務の推進やタブレットの業務活用、海外拠点を含めたグローバルなシステム統合などを進めやすくなるからだ。その先にあるステップとして、アプリケーションのSaaS化やカタログ化を推し進めて運用負荷やコストを低減させるシナリオを描ける。

 ヴイエムウェアは、2013年2月27~28日に都内で開催中の「Cloud Days Tokyo/ビッグデータEXPO/スマートフォン&タブレット」(主催:日経BP社)のセミナーで、「VMwareの仮想デスクトップ体験ラボ」を出展している。菊本氏は、「現状のセキュリティ強度を維持したまま、利便性と自由度を高めるためのテクノロジーは既に利用可能な状態になっている。ぜひ一度体験してみてほしい」と、同ラボへの参加をアピールした。