金沢工業大学名誉教授の奥村善久氏は米国時間の2013年2月19日、米ワシントンで開かれた全米工学アカデミー(National Academy of Engineering)の授賞式で「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を受賞した。同賞は工学の発展に貢献した人物に授与され、「工学分野のノーベル賞」とも呼ばれる。日本人研究者の受賞は今回が初めて。

 奥村氏は日本電信電話公社(現NTT)で移動無線研究室長などを務め、世界初の自動車携帯電話ネットワーク/システムの構築と標準規格化に貢献したことが評価された。特に移動通信の電波伝搬特性の解明においては、VHF帯からUHF帯までの広い周波数帯の電波を用いた屋外送受信実験を様々な環境で繰り返し、100kmまでの範囲での受信電界強度曲線とサービスエリアを推定する手法を確立した。

 奥村氏が発表した電界強度曲線は国際電気通信連合(ITU)の国際無線通信諮問委員会(CCIR)勧告として採用され、「奥村カーブ」の名称で高く評価されているという。携帯電話システムの無線回線設計では現在も奥村カーブを基礎とした伝搬推定式が活用されており、エリア品質の調査や最適化でも奥村氏による屋外実験データの分析手法が役立っている。このほか、800MHz帯活用の本格的な自動車電話サービスの実現に至る新方式を構想するなど、自動車携帯電話ネットワーク/システムの基礎を構築した。

 なお、過去には集積回路の発明者のジャック・キルビー(ノーベル物理学賞も受賞)、GPS開発者のアイバン・ゲッティング、「パソコンの父」と呼ばれるアラン・ケイ、World Wide Webを考案したティム・バーナーズ・リーなども受賞している。