写真1●血圧測定プロジェクトで利用しているソリューションの概要
写真1●血圧測定プロジェクトで利用しているソリューションの概要
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写真2●盛岡市立病院診療部長兼神経内科長の佐々木一裕氏
写真2●盛岡市立病院診療部長兼神経内科長の佐々木一裕氏
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 東京都内で開催された「JTTA Spring Conference 2013」(主催:日本遠隔医療学会)で2013年2月16日、岩手県内の東日本大震災被災地で実施されている血圧測定プロジェクトと、その途中経過についての報告があった。携帯電話回線を経由して地域に散在する被災者の血圧データをデータセンターに集約し、それを医療機関で分析して被災地を健康・医療面から遠隔サポートする取り組みである。

 具体的には、岩手医科大学と盛岡市立病院が中心となり、仮設住宅避難者に対する適切な血圧管理と2次的心脳血管疾患の予防対策を、2012年4月23日から実施している。携帯電話向け半導体などを手掛ける米クアルコムの日本法人であるクアルコムジャパンと、アジア諸国民の健康増進に寄与することを目的に活動するメディカル・プラットフォーム・エイシア(以下、MedPA)が、クアルコムの提唱するWireless Reachイニシアチブの一環として後援し、資金提供を行っている。

 対象は、岩手県内の仮設住宅の入居者など被災地住民のうち、陸前高田市、釜石市、大槌町、宮古市、田野畑村に居住する、収縮期血圧(いわゆる最大血圧)140mmHg以上の高血圧症患者とその予備群。対象者は朝夕2回血圧を計測する。

 利用しているソリューションは、医療機器・ソフトウエア開発のケルコムが提供する携帯電話回線を用いた遠隔医療支援システム「ぽちっとらいふ」(写真1)。ぽちっとらいふの送信機とオムロンのデジタル自動血圧計を、地域の医療施設や自治会などを通じて無償で合計200台配布した。

 ぽちっとらいふは、携帯電話回線を使った血圧測定ソリューション。auのパケット通信網を利用して、血圧データをインターネット経由でリアルタイムにケルコムのデータベースサーバーに送り込む。オムロンの自動血圧計を専用送信機にUSB接続して測定すると、送信機から自動的に携帯電話回線でデータを送信する。蓄積されたデータは、計測者本人だけでなく医療機関からもネット経由で閲覧できる。このデータを基に症状が悪化した人を洗い出し、医療機関を通じてアラートを出すなどの行為が可能となる。実際に、1週間の収縮期血圧平均が150mmHg以上の測定者には、医療サイドから状況確認のための連絡を実施している。

 JTTA Spring Conference 2013で報告をした盛岡市立病院 診療部長兼神経内科長の佐々木一裕氏(写真2)は、「阪神や新潟の震災のときと異なり、血圧が高止まりする傾向にある。遠隔管理の6か月間のデータを分析した結果、わずかに低下傾向が見られるものの有意性はない」と述べた。原因の詳細は不明だが、仮設住宅居住の長期化によるストレスなどが考えられる、という。「今後も継続的な管理が必要で、100台を追加配布する計画を進める」と言明し、同時に定期的な管理を続けるため医療機関はもちろん社会福祉士、保健師などによる継続的サポートが重要と訴えた。一方、通信機能面については「一部、山間地を中心に通信環境が良好ではなく、送信不能な地域があった」とし、今後の課題も指摘した。