写真●「遠隔操作ウイルス事件」の問題点を検証する大阪府警の発表文書
写真●「遠隔操作ウイルス事件」の問題点を検証する大阪府警の発表文書
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 警視庁、大阪府警、神奈川県警、三重県警は2012年12月14日、「遠隔操作ウイルス」を巡る誤認検挙に関する問題点の検証結果を公表した。IPアドレスなど乏しい証拠を基に真犯人ではない人物を検挙したことについて、「極めて遺憾」だとしている。

 4警察はそれぞれWebサイトで検証結果の文書を公表した。このうち大阪府警の公表文書(写真)では、大阪市のWebサイト「市民の声」に「無差別殺人予告」が書き込まれたことで、8月に男性を逮捕したものの、起訴後に釈放し、10月に起訴取り消しに至った経緯について検証している。

 大阪府警は、「無差別殺人予告」が書き込まれたIPアドレスから、男性のモバイルルーターが書き込み元であると判断。8月1日に東京都内に滞在していた男性と接触して事情聴取し、ノートパソコンとルーターの任意提出を受けた。大阪府警はこれらを解析した結果、このパソコン・ルーターからの書き込みであると推定した。

8回の任意取り調べ、「ポリグラフ検査」も

 大阪府警は、8月26日の逮捕に至るまで8回の任意取り調べを実施。「ポリグラフ検査」(いわゆる“嘘発見器”)にもかけたが、男性は事件への関与を否定し続けた。男性が「第三者による犯行説」を主張したため、その可能性についても検討したという。ところが、男性のパソコン内部のアクセス履歴やIPアドレスの割り当てなどを根拠に、第三者犯行の可能性は低いと判断した。

 大阪府警はこうした捜査結果を踏まえて、8月25日に逮捕状を請求。翌26日に男性を威力業務妨害容疑で逮捕した。逮捕の必要性について「男性は本件への関与を完全否定しており、本件書き込みの手段・方法が未解明であること」などを挙げている。男性は逮捕後の取り調べでも一貫して関与を否定し続けたが、追加捜査の結果さらに犯行の疑いが濃厚だと判断し、9月14日に起訴されるに至った。

 ところが起訴後の9月18日、三重県警から「伊勢神宮等に対する犯行予告事件」について捜査協力の依頼を受け、大阪府警はサイバー対策室員を派遣。ここで大阪府の事件と共通する「iesys.exe」という名称のファイル(ウイルス)を発見し、ようやく「遠隔操作ウイルス」を通じた犯行の可能性が浮上したという。このため、男性は9月21日に釈放され、後に起訴が取り消された。

 この経緯における問題点について、大阪府警は技術力や解析機材の不足を指摘。「巧妙、高度化する同種犯罪には、全国的な組織的対応、支援ができる仕組みが不可欠であると痛感した」としている。メディア報道では男性に対する取り調べの是非について取りざたされているが、これについては取調官への聴取を基に「不適正な取調べは確認できなかった」と否定した。

 4警察の合同捜査本部は遠隔操作ウイルス事件の真犯人検挙のため、最大300万円の報奨金付きで情報提供を呼びかけている(関連記事)。

[警視庁の発表資料(PDF)]
[大阪府警の発表資料]
[神奈川県警の発表資料(PDF)]
[三重県警の発表資料(PDF)]