プライバシーバイザーを装着し、近赤外線を照射しているところ。光源はデジタルカメラで撮影するとはっきり写る(上)が、人間の目で見たときには弱く光る程度
プライバシーバイザーを装着し、近赤外線を照射しているところ。光源はデジタルカメラで撮影するとはっきり写る(上)が、人間の目で見たときには弱く光る程度
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現在の顔検出技術では、顔の明るさの分布を基に顔を認識する。この認識を失敗させるために、鼻筋や目の周辺にLEDを配置した
現在の顔検出技術では、顔の明るさの分布を基に顔を認識する。この認識を失敗させるために、鼻筋や目の周辺にLEDを配置した
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今回の技術を開発した、国立情報学研究所の越前功准教授
今回の技術を開発した、国立情報学研究所の越前功准教授
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バッテリー付きのプライバシーバイザー。一つ1000円程度のLED、同じく1000円ほどのゴーグルと、数千円のバッテリーを組み合わせた
バッテリー付きのプライバシーバイザー。一つ1000円程度のLED、同じく1000円ほどのゴーグルと、数千円のバッテリーを組み合わせた
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 国立情報学研究所(NII)は2012年12月12日、他人のカメラに偶然写り込んでしまうことによるプライバシー侵害を防ぐための技術を発表した。「プライバシーバイザー」と呼ぶゴーグルを顔面に装着。これで、顔写真を撮影された場合に画像にノイズを発生させられる。顔画像の解析技術などを用いて自らの顔を特定・検索されることを防止できるという。

 プライバシーバイザーは、市販のゴーグルに、人の目には見えない近赤外線を照射するLEDを11個取り付けたもの。LEDは、目の周辺に8個、鼻筋の周辺に3個配置されている。これを装着した人をカメラで撮影すると、画像には目や鼻の周辺にノイズが発生する。顔認識ソフトや類似画像検索エンジンでこうした画像を解析しても、顔を顔として認識できない。10人の被験者を対象に、カメラとの距離や角度をさまざまに変えて検証したところ、顔を検出できたケースはなかったという。

 今回の技術開発の背景には、カメラ付き携帯デバイスやSNSなどの普及によるプライバシー侵害への懸念がある。意図せずに他人の写真に写り込み、その画像が知らぬ間にアップロードされることも珍しくない。顔画像検索技術などの発展により、こうした画像が容易に探せるようになれば、自分がいつ、どこで、何をしていたかといったことが他人に分かってしまう。

 現在、顔認識や顔画像検索といった技術には、「Viola-Jones法」という手法が広く用いられているという。この手法は、目の周辺は暗い、鼻の周辺が明るいなど、画像中の明るさの分布を基に顔を検出する。今回の技術を開発したNIIの越前功准教授は、この点に着目。LEDを目や鼻の周辺に配置し、顔本来とは異なる明るさが写真に記録されるようにした。

 なお、撮影された写真を人間が目で見た場合には、ある程度の本人特定が可能だ。今回の技術の目的は「機械的な認識を防ぐもの。人間が見ても分からないようにするには、近赤外線の光源を増やす必要がある」(越前氏)。プライバシーバイザーが大がかりなものになり、対面でのコミュニケーションに違和感が出る可能性もあることから、機械的な解析の防止に目的を絞ったと説明した。

 現在は、連続使用で3時間ほど持続するバッテリーを搭載する。一方で、電源が不要なタイプの開発も進めている。LEDの代わりに、特定の波長の光を反射・吸収する素材をゴーグルに貼り付けることで、顔本来とは異なる明るさの分布を生み出す仕組みだ。バッテリーが必要なプライバシーバイザーは製作に1万数千円かかるが、バッテリーが不要な場合は、さらに安価に作れるという。