2012年10月29日、「近未来教育フォーラム2012」が東京都内で開催された。テーマは「オープンエデュケーション」で、特にこの分野で先行する米国や韓国の事例が多数紹介された。

教育は情熱を増幅し、格差を超える

 米国の最新事情を取り上げた一人が、基調講演に立った京都大学高等教育研究開発センター教授の飯吉透氏(写真1)。オープンエデュケーションに取り組む多くの大学や研究機関などの事例を紹介、解説した。

写真1●京都大学 教授の飯吉透氏
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 「教育の原点は、情熱と狂気」とする飯吉氏がまず紹介したのは、“情熱の増幅”を実行する人たち。ここでは、物理が好きで好きでたまらない物理学者が、毎回の授業のために膨大な体感ツールを準備して授業に臨む様子や、いとこのためにと遠隔教育を始めた1人の銀行家がいまや3000種類のビデオ講義をインターネット上で紹介するようになった「Khan Academy」などを取り上げ、「彼らの情熱とインターネットによっていろいろなことが起こっている」とした。

 飯吉氏は、インターネットによる公教育の逆転現象(Flipped classroom)を取り上げた。従来は家で予習し学校で授業をしていたが、「インターネット時代にも同じことをやっていていいのか」「知識を得るだけなら、自宅学習で済むのではないか」という問いである。グループ単位のチュートリアルが、今後の学校教育の姿ではないかとみる。

 次に取り上げたのは、“格差超越”を実現する教育の事例である。アルゼンチンのLa Punta大学が支援している人口非密集地域向けの遠隔教育や、米マサチューセッツ工科大学(MIT)による実験設備の遠隔利用、アフリカでのオンライン大学「African Virtual University」などだ。発展途上国では、経済成熟国の“当たり前”が通用しない。学校という「箱モノ」が普及する前に、いきなりオンラインの教育機関が登場するなど、異なる進化を遂げる可能性があると飯吉氏は指摘する。

2010年代は「Cの10年」

 飯吉氏は、「オープンエデュケーション」を、「オープンテクノロジー」「オープンコンテンツ」「オープンナレッジ」の3要素で構成されるとする。このうち、最も話題が多いのはオープンコンテンツ。10年前から取り組みが始まった「MIT OpenCourseWare」が進化を続けていることや、その対抗軸として、カーネギーメロン大学(CMU)の「Open Learning Initiative」など各地の大学で多くの取り組みが始まっている様子や、企業によるオープン化の取り組みの代表として米アップルの「iTunes U」、狭義の教育とは異なるが短時間のプレゼンテーションを主体とするカンファレンス「TED」などを紹介した。

 「うまい教え方」を共有するオープンナレッジの分野でも、取り組みは盛んだ。チームティーチングすることを前提としたビデオなどを紹介、教え方についても「見える化」と「パッケージ化」が進行しており、ネットを通じて伝播が広がっているとする。

 飯吉氏は、時代の変遷としてeコマースやeビジネスが話題になった1990年代の「Eの10年」、オープンソースやオープンシステムによる2000年代の「Oの10年」を経て、2010年代はコラボレーションやコミュニケーションなどの「Cの10年」に入ったとする。同氏は、日本の組織が「E」と「O」を十分に理解し体験しないまま「C」の時代に適応できるのか、という疑問を呈した。

 高等教育の未来として飯吉氏は「高等教育がパイプライン型からネットワーク型へと構造的に見直される」「物理的空間としての大学、という概念が見直される」「教える人=教員 vs 学ぶ人=学生という役割の見直し」「高等教育=学位という固定観念の見直し」などを挙げた。

 事例満載の飯吉氏の講演を締めくくったのがスティーブ・ジョブズ氏のコメント。「人類がより良く進化するための方法は、最善を選択して皆に広めること」という発言を引用して同氏は講演を終えた。