九州大学情報基盤研究開発センター情報統括本部の伊東栄典准教授
九州大学情報基盤研究開発センター情報統括本部の伊東栄典准教授
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 2012年10月17日・18日に福岡県・博多市でクラウドコンピューティングの総合展示会「Cloud Days Fukuoka 2012」が開催された。18日の基調講演では、九州大学情報基盤研究開発センター情報統括本部の伊東栄典准教授が同大学によるクラウド構築の取り組みについて紹介した。

 「クラウドを導入し、必要なIT環境を素早く用意できるようになった。研究開発に集中することで、さらなるイノベーションを後押しする」。伊東准教授は九州大学によるクラウド構築の狙いを語った。

 九州大学は2012年10月に、大学の職員や学生向けの「九大キャンパスクラウドシステム」を正式に稼働させた。研究開発や事務処理にサーバーが必要になったら、すぐにクラウド環境に仮想マシンを用意して利用できるようにした。

 具体的に九州大学が構築したクラウドは4つある。「教育用クラウド」「サーバー用クラウド」「開発用クラウド」「データ処理用クラウド」である。

 このうち教育用クラウドは、講義や演習の際に使うサーバーを、クラウド環境から提供するものだ。大学向けのクラウド管理ソフト「VCL(Virtual Computing Lab)」を使って、大学のカリキュラムに併せて仮想マシンを利用できるようにした。サーバー用クラウドは、Webサーバーやメールサーバーなどを動かすためのクラウドサーバー。教育用クラウドとサーバー用クラウドは、米ヴイエムウェアの仮想化ソフトを使って構築した。

 これに対し、開発用クラウドはオープンソースのプラットフォームである「Xen」で動作する。開発用クラウドは、新しいソフトウエア開発などに利用するためのもの。開発環境として短期間利用する、といった用途であれば、比較的安価に導入できるXenでよいと判断した。データ処理用クラウドは、データマイニングや解析などに利用するクラウドだ。分散処理ソフト「Hadoop」などを使えるようにする。

 これらのクラウドを整備することで、学内業務や研究開発のために、その都度サーバーを購入したり、設定作業をしたりする必要はなくなった。当初はこういったクラウドを、外部のサービスを利用して構築することも検討したという。しかしコストがネックになった。「商用サービスのクラウドは高機能であるため、学生などが使用するのは難しい」(伊東准教授)との判断もあった。

 ただ、実際にクラウドを九州大学内に解放したところ、リソース不足に陥ったという。「いきなり64台のサーバーを使いたいとか、データのバックアップ用にストレージは使えるのか、といった要望が多数寄せられた」と、伊東准教授は話す。ネットワーク環境の面でも、リソース不足が顕在化してきた。「IPアドレスや通信帯域が不足したほか、今使っている通信装置では仮想ネットワークを構築する機能も十分ではない」(伊東准教授)。

 九州大学は今後クラウドの強化を進めていく。「テンプレートなども充実させていく。商用サービスに負けないクラウドにしたい」と伊東准教授は意気込む。