写真1●ITpro EXPO 2012で講演するシンクエージェントの樋口進・代表取締役主席コンサルタント
写真1●ITpro EXPO 2012で講演するシンクエージェントの樋口進・代表取締役主席コンサルタント
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写真2●Drafficで分析した地下鉄東新宿駅周辺の顧客導線の例
写真2●Drafficで分析した地下鉄東新宿駅周辺の顧客導線の例
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 「“ビッグデータ”を生かした新しい位置情報技術を使えば、商圏分析の在り方が大きく変わる」(シンクエージェント代表取締役主席コンサルタントの樋口進氏、写真1

 2012年10月12日、東京ビッグサイトで開催された「ITpro EXPO 2012」展示会場内のセミナールームにおいて、「位置情報の未来。人の動きを可視化する電通の新ソリューションDraffic(ドラフィック)」と題する講演が行われた。電通コミュニケーション・デザイン・センターの中嶋文彦氏、ゼンリンデータコム営業戦略室の足立龍太郎氏、シンクエージェント樋口氏の3人が登壇し、3社の協業によるDrafficの概要と、これを商圏分析に活用する事例を話した。

 まず、電通の中嶋氏とゼンリンデータコムの足立氏がDrafficの機能について説明した(仕組みの詳細は関連記事を参照)。中嶋氏は「小売業は慢性的なオーバーストア状態になっている。居住地をベースにした従来の商圏分析の限界が見えてきている」と強調した。

 Drafficでは、許諾を得て取得した約70万人分の携帯電話GPSデータを基に、静的な人口統計ではなく、動的な人の流れを分析できるようにしている。中嶋氏は「従来も、ポイントカードやアンケートなどによって自店の顧客導線はある程度把握できたが、Drafficでは競合店や地域も含めた人の流れが把握できるようになったのが大きな特徴だ」と話した。

顧客は近ければ来店するとは限らない

 次にシンクエージェントの樋口氏は、商圏分析の長年の変化について解説した。「私は昔から商圏分析に関わってきた。以前は店舗周辺の人口を電卓を叩きながら計算していた。その後、GIS(地理情報システム)が出てきて計算作業は楽になったが、真の意味での“流動人口”は今でも把握しにくい現実がある」と指摘した。

 現状でも、住所別の昼間人口(昼間に通勤・通学・行楽などに出ている人の人口)と夜間人口の統計はあるが、これらのデータと“流動人口”との乖離が大きくなっているという。「近年、都市部では、マンションと商業施設の大型複合施設が毎年のように建設され、東京では渋谷や新宿といった既存の繁華街から買い物客を奪っている。それに、エキナカやエキチカなどへの出店も増えており、『住んでいる人』に来店してもらうよりも、『歩いている人』に来店してもらうことの重要性が増している」(樋口氏)。

 樋口氏はDrafficから得られるデータを基に、その根拠をいくつかの事例で示した。例えば、新宿の繁華街にほど近い住宅地である地下鉄東新宿駅近辺での商圏分析を示した。この辺りは人口密集地だが、地場のスーパーや専門店などが多数出店している地域だ。このエリアを「北西・北東・南西・南東」の4区画に分割し、北西に新規出店することを想定して、顧客導線を分析した。

 従来の商圏分析では、競合店が少ない北東の住民を、北西の新規店に呼び込めるという前提で、「新規出店すれば一定の来客を見込める」という結論に落ち着きがちだ。ところが、Drafficを使った分析によると、実際には北東部の住民は東新宿駅のある北西には向かっておらず、別の地下鉄駅などを使って直接新宿駅方面の繁華街・オフィス街へと向かっている導線が強いことが分かる(写真2)。このケースでは、顧客導線から外れた北西部に新規出店しても顧客を呼び込むことはできず、想定通りに集客できないことになる。

 シンクエージェントの樋口氏は「従来のGISでは、データに基づいた分析をしているようで、実は、競合店からどの程度シェアを奪ってどの程度の来店を望めるかというところでは、勘に頼っていた。DrafficのようなGPSを使った分析を活用すれば、新規出店の成功率をもっと上げられるはずだ」と話した。