写真1●モデレータを務めた日経コンピュータの木村岳史編集長(撮影:中村宏)
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写真2●ITpro読者に聞いた、私物端末の業務利用実態と勤務先の許可状況(撮影:中村宏)
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写真3●ユナイテッドアローズ 情報システム部の高田賢二部長(撮影:中村宏)
写真3●ユナイテッドアローズ 情報システム部の高田賢二部長(撮影:中村宏)
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写真4●ガリバーインターナショナルの許哲執行役員(撮影:中村宏)
写真4●ガリバーインターナショナルの許哲執行役員(撮影:中村宏)
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写真5●大和ハウス工業 情報システム部長の加藤恭滋執行役員(撮影:中村宏)
写真5●大和ハウス工業 情報システム部長の加藤恭滋執行役員(撮影:中村宏)
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 BYOD(私物デバイス活用)の目的は、社員にもっと生き生きと働いてもらうこと――登壇した3社の情報システム部門トップは、この点で意見が一致した。

 2012年10月10日から12日にかけて東京ビッグサイトで開催された「ITpro EXPO 2012」で、「BYODによる情報活用の可能性と課題を考える」と題するパネルディスカッションが開催された。スマートフォンやタブレット端末など、社員の私物端末を業務に活用するBYOD(Bring Your Own Device)の利点と運用面での課題を、大和ハウス工業、ガリバーインターナショナル、ユナイテッドアローズのパネリストが議論した。

 モデレータを務めた日経コンピュータの木村岳史編集長(写真1)はまず、ITpro読者を対象にしたBYODのアンケート結果を紹介。「ITpro読者が対象なので、やや数値が高く出る」(木村編集長)とした上で、私物端末を業務で利用している人は5割超、うち3割はほぼ毎日利用しているというデータを示した(写真2)。その一方で、勤務先が私物端末の業務利用を認めている例は2割、勤務先がルールを決めていない例は4割にのぼるなど、企業が私物端末の業務利用を適切に管理できていない実態を示した。

 衣類や小物などを販売するセレクトショップを運営するユナイテッドアローズは、4年前からBYODの取り組みを進め、個人の端末から予定表など一部の業務システムを利用できるようにしたという。

 同社 情報システム部の高田賢二部長(写真3)は、BYODのメリットとして「社員が気に入っている端末を使えるので、生産性が高まる」点を挙げる。会社支給の端末では、償却が終わる頃には型落ち品となり、かえって生産性を落とすことになりかねない。会社支給の端末と個人端末を常に2台持ち歩く煩雑さもデメリットだ。

 会社支給という形態を取りながら、BYODの利点をうまく取り込んだのが、中古車販売のガリバーインターナショナルである。同社は、2011年までに営業部門1500人すべてにiPadを配布した。面白いのは、同社が支給した端末に「公私混同」を認めた点だ。会社はMDM(Mobile Device Management)システムで最低限の管理をする一方、iPadの利用法やインストールするアプリには制限を設けなかった。

 この狙いについて、同社の許哲執行役員(写真4)は「社員が端末を気に入れば、端末を常に持ち歩くようになり、いつでもどこでも仕事ができるというワークスタイル改革を実現しやすくなる」と語る。実際、ビジネスアプリを導入して仕事の生産性を高める社員もいる一方、ゲームアプリを入れている社員もいるという。「私も含め経営メンバーには、iPhoneを自腹で購入してもらっている。トップから率先して新たなワークスタイルに移行するためだ」(許執行役員)。

 住宅総合メーカーの大和ハウス工業は2011年に、営業部門の社員に約4000台のiPadを配布、顧客向けのプレゼンテーションや外出中のメール確認などに活用している。情報システム部長の加藤恭滋執行役員(写真5)は、次のステップとして、会社支給からBYODへ移行することを検討しているという。

 加藤氏は「仕事に使う端末は自己投資、という考え方でいいのでは」との考えを披露した。例えば営業担当であれば、トップセールスを得るのに最適な端末を自分で選び、必要な環境を整えるということがあっていい。このために、会社は一部費用を補助したり、セキュリティなど必要なシステムを整えたりする必要がある。「社員がスーツやネクタイを買うのと同じように、端末も社員自ら投資として購入するのが当たり前になるのでは」(加藤氏)。

課題は情報漏洩と労務管理

 パネルディスカッションでは、BYODの運用における二つの課題が議論の俎上にのぼった。一つは、持ち運びできる端末を業務に利用する上で、情報漏洩のリスクとどう向き合うか、である。

 大和ハウス工業の加藤氏は、MDMなど必要最低限の管理システムの導入に加え、「今日使うデータ、あるいは今週使うデータだけを持ち運べるようにする機能が必須になる」と主張した。必要なデータだけ閲覧できるようにすれば、リスクを制御するとの発想だ。このほか、「そもそも端末にデータを一切残さないようにするのが望ましい」(ユナイテッドアローズの高田氏)との意見もあった。

 もう一つの課題は、BYODと社員の労務管理の整合性である。

 ユナイテッドアローズではBYODの導入に際し、人事部から一旦ストップがかかったという。24時間365日業務ができる環境を社員に与えるのは望ましくない、というわけだ。例えば、スマートフォンで業務メールを見ていて交通事故にあえば、労働災害と認定される可能性がある。

 高田氏は、人事部と時間をかけて討議した結果、BYODについては「適用は会社の強制ではなく、社員の裁量とする」「利用に際して一定のルールを定め、社員には誓約書にサインしてもらう」「家で長時間利用する場合は、残業申請をする」といったルールを定めることにしたという。加藤氏や許氏も、BYODと労務管理との折り合いについては「なかなか答えがでない問題」と指摘した。

 最後に、EvernoteやDropboxといった個人用のクラウドサービスを業務に使うことの是非が議論された。高田氏と許氏は、いずれもEvernoteのヘビーユーザーという。「個人用クラウドの優れたユーザー体験を味わった社員にとって、業務でそれが使えない事態になれば、仕事へのやる気を失いかねない」(許氏)。ただし、個人用クラウドを業務に使うには、個人情報や機密情報をアップロードしないなど、社員へのITリテラシー教育が必要になるという。許氏は「ITリテラシーは自動車における免許のようなもので、個人用クラウドの利用には不可欠だ」と語った。