写真●日経SYSTEMSの森重和春 副編集長
写真●日経SYSTEMSの森重和春 副編集長
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 「ITエンジニアはこれから超上流工程に深くかかわって、ユーザー企業の担当者のニーズとITを結びつける役割を担うよう、変わらなければならない」。

 東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2012」展示会、メインシアターのトレンド解説で、日経SYSYEMSの森重和春 副編集長は、ITエンジニアが超上流に向かう必要性や実践例について分かりやすく解説した(写真)。超上流工程とは、RFPや要件を固める前の、事業や業務の検討・策定工程を指す。

 ユーザー企業の担当者から示されたRFPや要件定義書に沿ってITエンジニアがシステムを開発しても、できたシステムを担当者が納得してくれない。開発の現場ではこういったことがしばしば起こっている。「これまでのITエンジニアの努力で、システム開発の品質、成果物の品質は高まっている。しかし、ユーザー企業の経営者や担当者がITエンジニアに求めているものはそれだけではない」と森重副編集長は指摘する。

 そう指摘する理由として、森重副編集長は、ITの現場の一線にいるITエンジニアの意見を紹介した。「ユーザー企業の経営層や利用部門の担当者は、ITをコスト削減のツールとみなす傾向は強い。だがITによるコスト削減は限界。システムで収益を上げることを考える必要がある」「今の仕事は、ユーザーから示された要件にITで応えること。でも出された要件以上のことはできない」。

 このような意見を踏まえて、森重副編集長は冒頭で紹介したコメントで、ITエンジニアの変革を促す。

 しかしITエンジニアがビジネス上の価値を生むためには、これまでの開発とは別の「利用部門の担当者からニーズを拾い上げる」といったタスクをこなす必要が出てくる。「利用部門の担当者は、ニーズを持ってはいてもうまく表現できないことが多い」(森重副編集長)からだ。

 そのタスクの一連の流れを、森重副編集長は日立製作所の開発現場で取り入れられている「Exアプローチ」を基に解説した。

 具体的には、(1)現場観察やインタビューを通した「ニーズの掘り起こし」、(2)ワークショップやプレーンストーミングをすることによる「ニーズを踏まえた業務改善策の検討」、(3)プロトタイピングをすることでの「業務改善策の合意形成」という、三つのステップだ。これらのステップが、ITエンジニアの超上流工程でこなすタスクになるという。

 講演の最後に森重副編集長は、それぞれのステップにおける工夫例も紹介した。例えば、ニーズの掘り起こしでは、「情報システム部門のエンジニアが利用部門の現場に深く入り込み、一緒に仕事をしていく中でのつぶやきをニーズとして拾う」という、東急ハンズの事例を挙げた。

 また業務改善策の合意形成では、リコーの情報システム部門で行っている「業務の一部を実際に変えてみて問題がないかどうかを利用部門の担当者に確認。合意を得たら別の業務を一部変えてみる」といった取り組みを紹介した。