写真●一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏(撮影:中村宏)
写真●一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏(撮影:中村宏)
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 2012年10月12日、東京ビッグサイトで開催中のITpro EXPO 2012で一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が特別講演「イノベーションを実現する『リーダーシップの本質』」に登壇。2008年5月のWall Street Journalで「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」にアジア人として唯一選ばれた野中氏は、会社の中堅層(ミドル世代)がリーダーシップを発揮して経営層と現場に影響を及ぼすことで日本にイノベーションを起こせると力説した。

 野中氏はまず、従来のビジネス手法が欧米的な視点に偏重していると指摘。それをそのまま日本で実践しようとしても、データ分析や頭の中でキレイな絵を描くプランニングなどに多くの時間を取られたり、過剰なコンプライアンスで自縄自縛になっているという問題点を分析した。

 野中氏は、欧米で重視されている言葉で表現可能な「形式知」よりも、人間が身体的に感じている言葉で表現しづらい主観的な「暗黙知」を日本ではもっと重視すべきと主張。客観的で科学的な形式知こそが知識であるという“偏見”から脱出して、形式知と暗黙知が相互に刺激し合うことでスパイラル型のレベルアップが可能になると語った。

 続いて野中氏は、本田宗一郎、スティーブ・ジョブズ、松下幸之助、柳井正といったリーダーたちの事例を紹介した。そのうえで数多くのリーダーたちの事例を分析した結果として、リーダーシップを発揮するには、1.「善い」目的をつくる能力、2.場を適時につくる能力、3.現実を直視する能力、4.直視・直観の本質を概念化する能力、5.概念を実現する政治力、6.集合知をつくり出す能力――の6つの能力が必要だと指摘した。

 こうした能力を発揮してイノベーションを起こすには、考えるだけでなく実際にやってみる「実践力」が、トップと現場のフロントをつなぐ「ミドル」世代の現場リーダーに大事と指摘。野中氏は、「見る」「聞く」でとどまらずに、最も重要なのは「試す」ことだと強調した。成功する確率は必ずしも高くなく失敗するリスクもあるが、失敗と成功は表裏一体で失敗を恐れていては成功のチャンスも少ないと力説。立ち見も出た満場の来場者にイノベーションにつながるミドル世代のリーダーシップの重要性を訴えた。