写真1●基調講演の「エンタープライズ・モバイル最前線」は携帯事業者3社のパネル形式で開催(写真:新関雅士、以下同)
写真1●基調講演の「エンタープライズ・モバイル最前線」は携帯事業者3社のパネル形式で開催(写真:新関雅士、以下同)
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写真2●NTTドコモ 法人事業部 法人ビジネス戦略部長 松木彰氏
写真2●NTTドコモ 法人事業部 法人ビジネス戦略部長 松木彰氏
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写真3●KDDI ソリューション事業本部スマートソリューション部 部長 原田圭悟氏
写真3●KDDI ソリューション事業本部スマートソリューション部 部長 原田圭悟氏
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写真4●ソフトバンクモバイル プロダクト・マーケティング本部法人モバイルソリューション統括部 統括部長 多田彰氏
写真4●ソフトバンクモバイル プロダクト・マーケティング本部法人モバイルソリューション統括部 統括部長 多田彰氏
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 現場で必要な業務ソリューションの実現をスマートデバイスが後押しする――。東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2012」の基調講演「エンタープライズ・モバイル最前線」では、スマートデバイスの業務での目新しい活用事例が携帯電話事業者3社のパネリストの口から次々に飛び出してきた。

 パネリストは、NTTドコモ 法人事業部 法人ビジネス戦略部長 松木彰氏、KDDI ソリューション事業本部スマートソリューション部 部長 原田圭悟氏、ソフトバンクモバイル プロダクト・マーケティング本部法人モバイルソリューション統括部 統括部長 多田彰氏の3氏。日経BP社 ITpro編集プロデューサーの菊池隆裕がモデレータを務め、スマートデバイスのビジネス活用の現状を読み解いていった。冒頭で菊池プロデューサーは、「朝一番のセッションが満席であり、スマートデバイスへの注目度の高さを物語っていると思う。今回のテーマは2つで、ホットな導入例と、今後の活用の展望について話を進めていきたい」と方向性を示した。

中小企業から広がる、ビジネスに直結するソリューションの導入

 まず、3社のパネリストから、それぞれのホットな導入事例の紹介があった。最初にNTTドコモの松木氏が「2:3:5」という数字を紹介した。その意味について松木氏は「携帯電話のシェア――ではない」と会場の笑いを取って雰囲気をほぐした後、種明かしをした。「これらの数字は、スマートフォンとタブレットの法人契約の回線数を企業規模で分類したもので、大企業:中堅企業:中小企業=2:3:5となっている。既存のフィーチャーフォンでは3分の1ずつの割合であり、スマートデバイスが中小企業に先行して浸透していることがわかる。これはスマートデバイスの使い方を象徴している」と説明する。

 スマートデバイスとクラウドを組み合わせるソリューションが一般化し、業務システムの構築方法が大きく変革している。場所を選ばずにデータにアクセスできることは、意思決定の場所がオフィスに限らない中小企業に有効である。また、専任の管理者を用意できない中小企業にとって設備投資や運用の手間を最小限に抑えられるクラウド型のシステムが好適だ。そう説明した後に松木氏は、NTTドコモのスマートデバイスの導入事例を2つ紹介した。「1つは札幌の不動産会社の事例で、賃貸の物件管理をタブレットで行っているもの。汎用的なクラウドサービスのEvernoteとOfficeソフトのExcelだけを使い、業務改善を実現した事例だ。もう1つは、プロントコーポレーションが研修ツールにタブレット端末を導入している事例。集合研修では覚えきれない部分を、マニュアルと動画を組み合わせた研修用コンテンツでフォローする。持ち運びに便利なタブレットで研修が受けられるため実施率が飛躍的に向上したほか、視聴傾向の確認ができることでコンテンツへのフィードバックにもつながっている」。

 KDDIの原田氏は、スマートデバイスの導入事例について「昨年まではメールやグルーウエアなどが多かったが、最近は売上を高めるといったものが多くなってきた」と、その変化を語る。まず原田氏は、タブレットでWebカタログの「DO! BOOK」を使った営業の例を示した。「Webカタログを使った営業のプレゼンに、ログを記録する機能を使った。これにより売上の高い営業マンのプレゼン手法を横展開することができるようになり、ノウハウの共有から売上アップにつながった」。また、KDDIの社内事例として、これまで営業担当者とSEなどが複数で出向いていたプレゼンを、営業担当者1人の訪問に変えたケースを紹介した。SEは社内に待機し、ビデオ会議で遠隔からプレゼンを行う。移動時間のコスト削減やSEの時間効率向上で、売上アップにつながっているという。

 また原田氏は、ロードサービスの自動手配システムに防水タブレットを導入した事例で、従来は平均で5分かかっていた手配時間を1分まで短縮できたことを紹介。これまでは電話により口頭で連絡していたものを、GPS位置情報などを使って現場近くの担当者のタブレットに情報を自動配信することで実現した。これは「業務フローまで変えることで、売上アップを目指す事例である。スマートデバイスの導入や運用にはコストがかかる。それを上回る売上アップなどの導入効果を得られるソリューションが求められている」と原田氏は語る。

 ソフトバンクモバイルの多田氏は、「スマートデバイスを使ったソリューションには無限の可能性が広がる」と切り出す。その可能性の根底にあるのは、「お客さまの視点で課題を考えること」だという。スマートデバイスは、パソコンなどと異なり、マニュアルがなくてもネットワークにつながり、小学生でも操作できる。こうしたデバイスの普及はワークスタイルを変えるソリューションの提供の可能性を広げるという。すでに「iPhoneが13万社以上、iPadが5万社以上に導入されている。この基盤を最大限に活用して、便利になったと感じてもらえる環境を提供していきたい」(多田氏)。そのためには、ソフトバンクモバイル1社では力不足で、パートナーと連携してソリューションを提供していくと説明する。

 多田氏は、「お客さまの視点」としてペーパーレス化、残業・出張削減、店舗活性化といったキーワードを掲げる。ペーパーレス化では、営業担当者がiPadを使って紙の削減と営業スピード向上を両立させた象印マホービンや、水まわりの点検業務のマニュアルを電子化してiPadに集約した水ingの事例を紹介。また、iPadを本部と店舗に導入してビデオ会議を実施するアパレルメーカーのファブリカでは、移動時間短縮といった効率向上に加えて、成功体験の横展開による売上アップも実現しているという。このほか、iPhoneを使ったクレジットカード決済を導入する東急ハンズの例から、顧客の満足度向上と売上アップにつながるものとして地方の店舗活性化の1つの解になるとの見方を示した。

 いずれも、大規模なエンタープライズシステムというよりは、身近な業務をスムーズに進行できるようにしたことで、結果として売上アップにつながった事例である。小さい組織でも導入しやすいスマートデバイスならではの、ソリューションの進展の仕方が見て取れる。

スマートデバイス時代にはソリューションの種は現場にある