写真1●OpenFlowプロトコルの標準化団体「Open Networking Foundation」(ONF)のダン・ピット エグゼクティブ・ディレクター
写真1●OpenFlowプロトコルの標準化団体「Open Networking Foundation」(ONF)のダン・ピット エグゼクティブ・ディレクター
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●ダン・ピット氏が講演中に示したSDNのアーキテクチャー
写真2●ダン・ピット氏が講演中に示したSDNのアーキテクチャー
[画像のクリックで拡大表示]

 2012年10月10日~12日まで東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2012」の特設エリア「OpenFlow/SDNランド」では、OpenFlowなどを採用したSDNのソリューションを展示している。イベント2日めにあたる11日には、OpenFlowプロトコルの標準化団体「Open Networking Foundation」(ONF)のダン・ピット エグゼクティブ・ディレクター(写真1)が来日し、「OpenFlowとSDN:ONFが描くネットワークの将来像」と題する講演を行った。

 ピット氏によると、SDN(Software Defined Network)は「ネットワークをソフトウエアで定義し、プログラミング可能にすること」。SDNを実現するための手段の一つとして注目されているプロトコルがOpenFlowだ。「標準化団体のONFは成立してからまだ1年半程度だが、参加する企業・組織は、当初の23から81にまで増えている」(ピット氏)という。ONFの特徴は、クラウド事業者や通信事業者のように、ネットワークを使うユーザーが中心となっていること。機器ベンダーにも協力してもらうが、主導的に標準化を進めるのはユーザー企業だという。

 ONFへの参加企業の増加が示すように、SDNへの期待感は高まっている。では、それを後押ししているものは何だろう。ピット氏は、その要因の一つとして「データへの依存、データの爆発的増加」を挙げた。例えば、近年ではモバイルでデータ通信を利用するユーザーが増えた。その結果、著しく増加するモバイルのトラフィックに対処するため、無線部分だけでなく、バックホールのネットワークをどのように構築・運用するべきかが課題になり始めている。

 また、「Google、Facebook、Microsoftなど“ハイパースケール”のデータセンターを運用する事業者がSDNを求め始めた」(ピット氏)。こうした企業は、世界中から自社サービスに向けて寄せられるアクセスを迅速にさばくため、今までは想像もつかなかった規模のシステムを運用する必要に迫られている。「ハイパースケールのデータセンターを構成するのは、特別な製品ではない。コモディティ化したごく一般的な機器や、汎用チップ(Marchant silicon)、オープンソースのソフトウエアなどが活用されている」(ピット氏)。ところが、こうしたデータセンターの中でネットワークがボトルネックになり始めたため、SDNのようなものが必要になってきたという。

 「通信事業者なども、サービスの展開をもっと早く実現できるネットワークを求めている」(ピット氏)。事業者が必要な機能をプログラミングによって実装できるようになれば、今よりもっと新サービスの展開が速くなるのではないかというのだ。クラウド事業者、通信事業者は、「なるべくコストをかけず、利益を上げたいと考えている。そのためには次々に移り変わるユーザーの興味やニーズに合わせて新しいサービスを立ち上げたり、人件費を削減したりすることが必要だ。SDNはこうした目的を達成する手助けになる」(ピット氏)。

ネットワークの進化の仕方が変わる

 SDNの登場は、ネットワーク機器の構成と進化の方向性にも影響するという。

 現在、広く利用されているネットワークには長い歴史がある。TCP/IPは1969年に米国防総省が構築したパケット交換網「ARPANET」の研究から生まれた。このときから、TCP/IPは機器が相互に情報を交換し、自己学習しながらパケットをやり取りする自律的なネットワークだった。また今までのネットワーク機器は、ハードウエア、OS、その上で動くアプリケーション(各種のプロトコルなど)がワンセットとなり、機器ベンダーによって作り込まれていた。新しいプロトコルを載せる場合は標準化会議に出して規格化を進めたり、ベンダーが独自に実装を進めたりして、数年規模の時間がかかってしまっていた。「こうしたネットワーク機器は、私にはメインフレームのコンピュータのように思われる」とピット氏は表現。この流れが、SDNによって変わろうとしているという。

 ピット氏は、ネットワークも現在のコンピュータのようになるべきだという。「様々なチップベンダーが汎用チップを開発し、複数のソフトウエア会社がOSを作るようになって、メインフレームはパソコンになった。その上で、何百ものアプリケーションが、アプリケーションとはどうあるべきか理解している人たちによって、多様な業種、規模のユーザー向けに提供されている。ネットワークもこのようになるのではないか。ハードウエア、OS、アプリケーションなど要素別にプレイヤーが分かれ、それぞれ独自に進化できるようになる」(ピット氏)。

 これらの各要素は複数のベンダーによって開発され、OpenFlowのようなオープンなインタフェース(API)でやり取りできるようになるのが望ましい。SDNが目指すのは、こうした業界構造の変化だ。「すると、ネットワークはコンピュータにおけるプログラムと同じように進化することができる」(ピット氏)。

 このように各要素の抽象化ができれば、「ハードの進化に依存しないで、一度書いたアプリケーションは今までより長期にわたって利用できるといったメリットが得られる。現在のネットワーク機器で使っているプロトコルは絆創膏をいっぱい貼ったようなもの。あるプロトコルの問題点を修復するために、別の複雑なプロトコルを開発したりしている」(ピット氏)。

 ピット氏によれば、SDNを実現するシステムには、特徴が大きく三つある。一つは、コントロールプレーンとフォワーディングプレーン(データプレーン)を分離することだ。「分離によって、コントロールプレーンからネットワークを集中管理し、全体を見通せるようになる」(ピット氏)。二つめは、フォワーディングプレーンが転送処理のみをすればよく、高度にインテリジェントな機能を必要としない点。三つめは、コントロールプレーンの上位にプログラミングのインタフェース(API)が存在することだ(写真2)。

 最近のスイッチ、ルーター製品はOpenFlowを採用し、SDNのフォワーディングプレーンとして動作する機能を備えるものが増えている。「この機能の搭載には、さほどコストがかからない。それよりもSDNの機能に対応しないことがデメリットになると考えられ始めたのではないか」(ピット氏)。さらに今後は、既存のネットワークとSDNの統合、SDNによって仮想化されたネットワークとサーバーやストレージなど、ほかのシステム領域との統合が進むだろうという。

 データセンターなどではオーケストレーターという機能を用意し、ネットワーク、サーバー、ストレージなど複数の領域を束ねて高い稼働率を保ちながら運用できるようになる。これまではネットワーク領域の仮想化が難しく、こうした構成の実現が難しかった。しかし、SDNの登場によってネットワーク仮想化や、高稼働率の実現が今までより簡単になるという。

ONFの役割はOpenFlowプロトコル策定以外にも

 ピット氏は最後に、ONFの役割についても触れた。

 それによると、単純にOpenFlowプロトコルの機能を拡充するだけでなく、「レガシーネットワークとの共存方法」「無線、光など様々なトランスポートへの対応」「コンフィグレーション手法の検討」「OAMの実現」など、様々な目的で複数のワーキンググループが活動している。また、「コントローラーの上位API(Northbound API)に関しては、すぐに標準化できるものではない。そこで15~20件のAPIをまとめたカタログのようなものを作成しようとしている。既存のソフトウエア、ユーザーの要件を並べ、足りないものは何かを洗い出そうとしている」(ピット氏)という。

 ピット氏は会場のユーザーにも、「ベンダーにSDNについて聞き、既存の製品を評価してみて足りないものがわかったら、ONFへの参加を検討してほしい」と呼びかけた。