写真1●翻訳家でもある日立コンサルティングの小林啓倫シニアコンサルタント
写真1●翻訳家でもある日立コンサルティングの小林啓倫シニアコンサルタント
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●「インフルエンサー理論」と「グループ理論」の違いを説明する小林氏
写真2●「インフルエンサー理論」と「グループ理論」の違いを説明する小林氏
[画像のクリックで拡大表示]

 東京ビッグサイトで2012年10月10日から12日まで開催中の「ITpro EXPO 2012」展示会場内に設けられたメインシアターでは、2日目の11日に、日立コンサルティングの小林啓倫シニアコンサルタント(写真1)が『フェイスブックはウェブの将来をどう分析しているか』と題して講演した。

 小林氏は、米GoogleでSNS「Google+」のサービス企画に関わったのちにFacebookに転職した経歴を持つポール・アダムス氏の書籍『ウェブはグループで進化する』日本語版(日経BP社)の訳者である。米国の巨人ネット企業を渡り歩いたアダムス氏の視点を基に、小林氏はウェブの変化について解説した。

 小林氏は、書籍に出てくるアダムス氏の主張の要点の中で、特に「マーケティング関係者の間で重視されてきた『インフルエンサー理論』が幻想ではないかという指摘は重要だ」と言う。

 従来型のマスメディアや、ホームページを中心としたネット上のウェブサイトが力を持っていた時代には、一部のインフルエンサー(影響力を持つ専門家や著名人)の発言が商品の売れ行きや世論形成などに影響を与えると考えられてきた。しかし、FacebookやTwitterの台頭で、人中心のコミュニケーションが重視されるようになった。

 インフルエンサーが一方的に発信する情報よりも、身近な人と相互にやり取りする情報の方が重視されるようになっているという。「この傾向が続くと、企業にとってマーケティングの手法が根本的に変わることになる」と小林氏は説明した。

少人数の親しいグループが鍵を握る

 Facebook上でも、企業がFecebookページを通じて数千人~数万人単位に一方的に情報発信する場合には、従来のやり方とあまり変わらない。だが小林氏は、「今後はネット上でも『グループ理論』が重要になる」と指摘した(写真2)。家族や同級生、会社の同僚など少人数の親密な人同士のコミュニケーションが、人の行動に大きな影響を与えるという考え方だ。

 その証拠として小林氏は、米国でPath(パス)というSNSが人気を博していることを指摘した。PathはSNSの一種だが、友達の人数が150人に制限されており、Facebookより濃密なコミュニケーションに適している。日本におけるLINE(ライン)の急速な普及も関係がありそうだという。「LINEは友達の数を制限しているわけではないが、実際の使われ方としては、1対1や多くとも数人程度の親しい人とコミュニケーションするケースが多い」(小林氏)。

 この状況では、情報の伝搬は現実世界の人間関係に近いものになる。例えば、「ある食べ物がおいしい」といった情報をまず「家族」という小さなコミュニティーで知った人が、同級生のコミュニティーに伝え、そこで知った別の同級生が近所に住む友達に伝える、といった形で、重複したグループに所属する人が媒介になって情報が伝搬していくというわけだ。こうした考え方は、アダムス氏がGoogle在籍時に関わった「Google+」にも反映されているようである。

 小林氏は「アダムス氏の考え方がどこまでFacebookに反映されるかはわからないが、Facebookのギフト機能などに兆候が表れている。今後この方向でサービスを拡充するためのFacebookの提携戦略に注目している」と語り、講演を締めくくった。