写真1●アクセンチュア 代表取締役副社長の関戸亮司氏(撮影:中村宏)
写真1●アクセンチュア 代表取締役副社長の関戸亮司氏(撮影:中村宏)
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写真2●業績のS字曲線に隠された3つの曲線(撮影:中村宏)
写真2●業績のS字曲線に隠された3つの曲線(撮影:中村宏)
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 東京ビッグサイトで2012年10月10日から3日間の日程で開催されている「ITpro EXPO 2012」にて、アクセンチュア 代表取締役副社長の関戸亮司氏が「グローバル市場での成長を目指す、日本企業の次なる一手」と題した特別講演を行った(写真1)。日本企業がイノベーションを実現し、グローバル市場で成長し続けるにはどうすればいいのだろうか。

 まず関戸氏は、日本企業に警告を鳴らした。世界市場におけるさまざまな製品の日本企業のシェアが、安価な海外メーカー製品の台頭により軒並み下がっているためだ。しかも、そのシェア下落の速度が速まっているというのだ。「例えば、DRAMの日本のシェアが約80%から約40%へと半減するまでには11年かかったが、カーナビは2000年前半の3年間でシェアが半減した。ほかにも、太陽光発電パネルやDVDプレイヤーなどが短期間で大きくシェアを落としている」(関戸氏)。

 これは、日本製品が過剰品質を求めるため、特に新興国で価格競争力が低下していることが大きいと関戸氏。とはいえ、「品質のいい日本製品が売れないというわけではない。新興国では安価で適度に使える製品が売れるが、所得が高い国では品質やオシャレさといった付加価値が求められることもある。市場が変わればニーズが変わるため、高品質な日本製品を受け入れる市場もあるのだ」と関戸氏は主張。その成功事例として、米国で高所得者層に受け入れられたトヨタ自動車のレクサスを挙げた。

 では、グローバル市場で持続的に成長する企業とはどのような企業なのか。アクセンチュアでは2003年より、32業界において800社を調査。業績のいい企業は、次々と新事業を展開するため、ひとつの事業の業績がピークに達しても常に次の事業を展開し、業績のS字曲線を描きながら成長を続けるという。

 そのS字曲線には、「隠された3つの曲線がある」と関戸氏。それは、競争、能力、人材の曲線だ(写真2)。つまり、市場ニーズに応じることで競争曲線をとらえ、独自の能力を伸ばしたり新たな設備を作るなどして能力曲線をとらえる。そして、優秀な人材を確保し育てることで人材曲線をとらえるのだ。「この3つの曲線を登りつめつつ次に進むことが業績向上につながっている」と関戸氏は説明する。

 「競争曲線をとらえるには、営業の現場や市場の端にあるようなニーズにも目を向けることだ。レクサスも、高所得者層の所得が他の所得者層に比べて急激に伸びているという調査に基づいて製品を投入している。能力曲線をとらえたいい例は、市場の状況が悪くても次に向けた投資を続けていた韓国企業だ。人材曲線についても、シリコンバレーにイノベーションを興すための組織を作ったサムスン電子がいい例だろう」(関戸氏)。

 また関戸氏は、この3つの曲線をとらえるにあたって、ITをうまく活用すべきだとしている。例えば、ビッグデータで非構造データを解析したり、FacebookなどのSNSを活用して顧客ニーズをとらえることや、製品そのものをIT化してサービス品質を向上させ、快適な環境を提供するといったことも可能だ。また、グローバルに製品展開する際は、グローバルなITアーキテクチャで業務を標準化させることが必要となる。人材に関しても、IT主導のビジネスチャンスを提案できるITプロデューサーや、IT投資戦略を立案できるITファイナンスコントローラーのような人材が必要だとしている。

 最後に関戸氏は、日本が向き合うべきグローバリゼーションには2通りあると述べた。ひとつは、海外進出という意味でのグローバリゼーション、そしてもうひとつは、国内市場のグローバリゼーションだ。

 「海外進出する際には、海外でマネジメントできる人材を育成し、高品質な日本の製品をグローバルで成長させていくことが重要だ。一方、国内市場のグローバリゼーションとは、海外から優秀な人材を引き寄せる会社作りをするということ。これは、日本の良さをなくすということではない。優秀な人材を日本に集める求心力により、日本そのものをグローバル化するということだ。この2つのグローバリゼーションが、継続的なイノベーションの鍵となるだろう」(関戸氏)。