東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授。「今あるパソコンにKinectをつなげてすぐ使える。我々が“アルテク”と呼ぶ、身の回りに既にある技術を活用するのが世界のトレンドで、積極的に開発している」という
東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授。「今あるパソコンにKinectをつなげてすぐ使える。我々が“アルテク”と呼ぶ、身の回りに既にある技術を活用するのが世界のトレンドで、積極的に開発している」という
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マイクロソフトディベロップメント社長兼日本マイクロソフト業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏。「新しいWindows 8でも、アクセシビリティの活動に継続的に取り組んでいく」と述べた
マイクロソフトディベロップメント社長兼日本マイクロソフト業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏。「新しいWindows 8でも、アクセシビリティの活動に継続的に取り組んでいく」と述べた
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首をわずかに傾けてライトを点けたり消したりするデモ。スタンドに取り付けたKinect for Windowsセンサー(写真中央)をWindows 7パソコンにつなげている。首から上だけが動く人を想定。写真右は、開発を担当する東大先端研支援情報システム分野の巖淵守准教授
首をわずかに傾けてライトを点けたり消したりするデモ。スタンドに取り付けたKinect for Windowsセンサー(写真中央)をWindows 7パソコンにつなげている。首から上だけが動く人を想定。写真右は、開発を担当する東大先端研支援情報システム分野の巖淵守准教授
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OAKのソフトウエア画面。どの角度か、どの部位の動きでライトをオンにするのか、設定している
OAKのソフトウエア画面。どの角度か、どの部位の動きでライトをオンにするのか、設定している
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動きのログを取ることで、「今まで見過ごされていた障害者の出すシグナルが、その変化から分かるようになる」(巖淵准教授)
動きのログを取ることで、「今まで見過ごされていた障害者の出すシグナルが、その変化から分かるようになる」(巖淵准教授)
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 東京大学先端科学技術研究センター(東大先端研)と日本マイクロソフトは2012年10月3日、人の動作を感知する入力デバイス「Kinect for Windows」を使い、重度の障害がある人たちを支援するシステム「OAK(オーク、Observation and Access with Kinect)」を開発したと発表した。

 OAKはWindows 7搭載のパソコンとKinect for Windowsで動作する。OAKを利用することで、脳性まひや脊髄性筋萎縮症などによる重度の障害がある人が、手足を大きく動かさなくても、まばたきや口の開閉といったかすかな動きで意思表示をしたり、支援機器のスイッチをオン/オフしたりできる。

 OAKの最大のメリットは「安価であること」(東大先端研の中邑賢龍教授)。一般に支援機器は、障害が重くなるとより特殊で高額なものになるのが課題だった。一方、OAKの場合はパソコンやKinectという既にある技術を使うので、コストを抑えられる。さらに、任意で動かせる部位の少ない人が、頭や舌で物理的にスイッチを触って人を呼ぶなどする場合、いったん体がずれてしまうとスイッチに触れる位置に自力で戻れないといった困難が多く伴っていた。Kinectであれば、こういう人たちのわずかな動きを検知できる。

 OAKの特徴としては、(1)口の開閉といった顔の動き、角度を検出する「フェイススイッチ」、(2)利用者の可動域に合わせて空中に“仮想ボタン”を作り出す「エアスイッチ」、(3)動いた軌跡(ログ)を取る「モーションヒストリー」――の3つが挙げられる。

 発表会場では、わずかな首の傾きやまばたきで電気スタンドのオン/オフを切り替えるデモや、周囲には分かりづらい、障害者の発する一定の動きを、赤や緑のドットイメージで示すデモを披露した。ソフトウエア開発キット「Kinect for Windows SDK」の現行バージョン(1.5)で、「顔や上半身を捉える精度が上がった」(中邑教授)という。

 今後、東大先端研と日本マイクロソフトは、OAKを利用した「重度肢体不自由・重複障害のある子どものためのICT活動体験プログラム」として、イベントなどで同システムを一般の人にも体験できるように活動して知見を集める。第1弾は、子どもの社会体験型施設「キッザニア東京」の「サイエンスフェア」内で、障害のある子どもたちを呼んで体験会を実施する(2012年10月5日から7日まで)。

 OAKとフィッティングやサポートをセットにしたパッケージも販売していく。既に、障害者支援技術の製品を販売する数社と話し合いに入っているという。

 東大先端研と日本マイクロソフトは、障害や病気による困難を持つ児童・生徒にパソコンなどIT機器やソフトを提供し大学進学を支援する「DO-IT Japan」プログラムに取り組んできた。2012年2月にも、筆記を困難とする生徒がパソコン入力により適正に受験できる支援ソフトを共同で開発している。