写真●ITRの金谷敏尊シニア・アナリスト
写真●ITRの金谷敏尊シニア・アナリスト
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 アイ・ティ・アール(ITR)の金谷敏尊シニア・アナリスト(写真)は2012年9月25日、日経BP社が主催する「ITpro Active製品選択支援セミナー クラウドスピード構築」の会場で「プライベートクラウドの最新動向と基盤構築手法」と題した基調講演を行った。

 金谷シニア・アナリストはまず、社会インフラの一つである「電力」を引き合いにマクロな視点からクラウドのトレンドについて語り始めた。電力が元々、私設発電所による運用から始まり、ロータリーコンバーターの発明(1888年)およびそれに続く電力システムの実用化(1900年)などを経て、約30年ほどかけて一般に普及(ユーティリティ化)したことを紹介。仮想化やクラウドも同じようにユーティリティ化するまでに30年程度かかるのではないかと予測した。

 金谷氏は、電力分野におけるロータリーコンバーターの発明に当たる技術革新が2000年の米VMwareによる「VMware ESX」のリリースであるとし、それから10年後の2010年が価格破壊と普及が始まる「クラウド元年」、2012年の今は「いよいよクラウドが実用化される時期」であるとした。ただし、現在はまだ変遷期であり、当面の間、市場に多数のプレーヤーが参入し、新しい技術も次々と出てきて価格競争も激しくなっていくという。市場における淘汰が始まるのは2017年前後になり、ユーティリティ化が完了するのは2030年ころになるだろうと述べた。

 「クラウドは決して一過性のブームではなく、非常に大きいトレンドにある」と主張する金谷氏は、その根拠として「クラウドの非常に破壊的な運用効率」を挙げた。具体例として同氏は、クラウドの世界では(1)広く普及する安価なPCパーツで数十万台の大規模サーバー環境を構築できること、(2)管理者一人当たり約5000台ものサーバーを管理できること、(3)シャーシ型サーバーを使ってPUE(Power Usage Effectiveness、エネルギー効率を示す指標)が1に近い高効率なデータセンターを構築可能なこと---などを紹介した。

日本特有の“プライベートクラウド指向”

 続いて金谷氏は、パブリッククラウドの市場規模などについて言及した。同氏によると、2011年時点におけるアウトソーシング市場全体の規模が約2.2兆円あるのに対して、このうちパブリッククラウドの市場規模は高々1200億円程度であり、約5%の割合にとどまっているという。「クラウドは元々Webセントリックあるいは既存アプリケーションのSaaS化から始まったが、ポテンシャルが非常に高いことが分かって基幹システムにも使えるという認識が徐々に高まってきている」ものの、実際の数字としてはまだこれから(逆に言えば成長の余地が大きい)というわけだ。

 実際に、ITRが2012年6月に調査した「クラウド/アウトソーシングに関する市場調査」によれば、例えば会計システム構築の場合、国内市場におけるシステム基盤構築の比率は75.3%が「非クラウドによる個別構築」だったという。一方、「プライベートクラウドで構築」は16.9%、「パブリッククラウドを利用」は7.8%で、両者を合わせても25%に満たない状況である。

 ただし、「今後はどうなるか」という質問に対しては、非クラウドによる個別構築の割合はグッと減り(48.7%)、クラウドの比率が大きく高まる(パブリックとプライベートの合計51.3%)という。特にユーザー企業の関心が高いのはプライベートクラウドによる構築の方で、16.9%から35.0%に上昇するという結果になっている。金谷氏はこうした国内市場における“プライベート指向”について、「2年前にはユーザーの関心が逆だったこともあり、調査結果を初めて見たときは『こんなにもプライベートクラウドへの関心が高くなったのか』と私も驚いた」と述べていた。

 金谷氏によれば、「海外ではパブリッククラウドとプライベートクラウドの指向比率は半々程度であり、プライベートクラウドへの関心がここまで高いのは日本特有の現象」だという。ただ、「こうした統計数字の読み方には注意する必要がある」と同氏は釘を刺した。「物理サーバーを仮想サーバーに束ねる『物理統合』までプライベートクラウドに含めている場合がある。私の場合、仮想化したリソースをグループに対して提供するものだけをプライベートクラウドと分類しており、単なる物理統合は含めていない」(同氏)。