2012年9月21日、午後1時50分。外交官ナンバーを付けた黒塗りのドイツ車が、ハザードランプを点滅させながら、幕張メッセ内にに滑り込んできた。関係者用の入り口前に停車するやいなや、SPらしき黒いスーツを着た男が、ムダという言葉が見当たらないほど素早い動きで車から飛び出す。その周囲、半径10mほどのエリアが、一転、物々しい雰囲気に変わった。

 SPが左側の後部ドアを開けると、車内から出てきたのは、民族模様らしき柄が楽しい落ち着いたグリーンの衣装を身にまとった、にこやかな表情の女性。右肩付近に付けられた、トンボのブローチが目を引く(昆虫好きか?)。ただ、その堂々とした立ち姿と、全身から惜しげもなく発散される気品は、どこから見ても“何か持っている”。世間ではそうした人たちのことを羨望を込めてこう呼ぶ……「セレブ」と。

 彼女の名はマリ・エルカ・パンゲストゥ氏。世界第4位、2億4000万人を超える人口を抱え、経済成長著しいインドネシアの「観光クリエイティブ経済省」の大臣だ。来場の目的はもちろん「東京ゲームショウ 2012」の視察、そして日本ゲーム業界のトップとの意見交換だという。

TGS 2012の会場である幕張メッセに、外交官ナンバーを付けた黒塗りの外車が到着。中から出てきたのは、インドネシア共和国観光クリエイティブ経済省のマリ・エルカ・パンゲストゥ大臣だ
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 インドネシアは今年、TGSに初めて出展した。まだ小さなブースにもかかわらず、大臣自ら会場に足を運ぶということは、それだけ同国がゲームを将来の経済発展のカギと考えているからに他ならない。一方、日本のゲーム産業にとっても業界の発展には世界進出が不可欠であり、中でもアジア市場における事業展開が非常に重要である。今回のパンゲストゥ大臣来日は、互いの連携を密にするには絶好の機会と言えるだろう。

 そんなVIPをほおっておけるわけがない。そこで「幸せな未来のため、我々もインドネシアに進出だ(?)」と勢いに任せて採った手段が……パンゲストゥ大臣の“追っかけ”であった。確かに、これが何の発展や幸せにつながるのか皆目見当がつかない。だが、頭からいっさいの疑念をぬぐい去り、TGS 2012会場での約2時間半にわたる“大臣ご一行様”の行動を追った。

主催者用VIPルームで出迎えるのは、CESAの辻本春弘理事(写真左から2番目)と、日経BP社の長田公平社長(同左端)
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