2012年9月11日に東京都内で開催された「IBM THINK Forum Japan」に、米IBMの新旧トップが登壇、日本企業のトップ300人を前に「リーダーの在り方」「新しいコンピューティングの時代」を語った。

 今回のイベントは、日本法人設立75周年を記念して行われたもの。冒頭、日本IBMのマーティン・イェッター社長は「過去を祝うのではなく、未来を探ることにした」とイベントの狙いを紹介した。

写真1●IBM会長のサミュエル・パルミサーノ氏(写真提供:IBM)
写真1●IBM会長のサミュエル・パルミサーノ氏(写真提供:IBM)
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 イェッター氏に続いて登場したのは、米IBM会長を務めるサミュエル・パルミサーノ氏(写真1)。

 「すべてのシステムは、未来に進んでいかないといけない」という同氏が、リーダーがすべきこととして挙げたのが、「成功にしがみつくのではなく、あえてやめること」。自身の日本法人への異動を振り返り、「米国のある部門に移る選択もあったが、個人の形成期に視野が広げられたので、日本を選んだのは結果として良かった」と振り返った。

 IBMは2011年に100周年を迎えたが、パルミサーノ氏は、そのタイミングで自問自答したというリーダーや組織の在り方に関する考えを披露した。具体的には「日々の業務を管理しつつ、未来を成功させるにはどうするか?」という経営者として普遍的なテーマ。「数十年にわたって企業が繁栄するにはどうすればいいかという命題について、自分なりに学んだことを紹介したい」と、リーダー論を語り始めた。

「企業の発祥の地に意味があるのか」

 最初の問い掛けは「組織の永続性」。同氏は、企業のアイデンティティや価値観、信念がいかに重要かを示し、IBMが創業時期からそれを確立し、その後の社員が制度化していったプロセスを紹介した。IBMは、そのような価値観や制度に基づき、どのような才能を求めるのか、どのような分野に参入すべきかを判断しているというわけだ。

 2番目の問い掛けが「関係者のバランス」。会社はだれのものか、という議論があるが、株主や社員、顧客などの関係者から一つを選ぶのは間違っているというのが、パルミサーノ氏の主張である。バランスをとるために妥協するのではなく「交差点を見出す」という独特の表現を使った。

 3番目の問い掛けは「コモデティ化への対応」。現在、多くの企業が直面する課題だ。その問いに対するパルミサーノ氏の回答は「新しい領域を作り、そこに入っていくこと」。新しいことを始めると同時に考える必要があるのが、別の事業をやめること。同社がパソコン事業を売却したことを振り返り、「中核ではないと気が付いた時点で撤退した。批判はあったが正解だった」とした。また、メインフレームの再生も挙げ「捨てるだけでなく、再構築も可能だ」とする。

 4番目の問い掛けは、あえて「日本にとって重要」と表現した「企業とその所在地」。グローバルビジネスにとって、企業の発祥場所に、どのような意味があるのかという問い掛けである。パルミサーノ氏は、「どこの国の企業か」ということよりも、「その地域で固有の価値を提供できるか」が重要だとする。

 最後の5番目の問い掛けは「長期的な経営」。株式の保有期間やCEOの就任期間が短期化している事実はあっても、「世界中の多くのリーダーが、長期的に物事を見る方向に変わっている」というのが、パルミサーノ氏が感じる市場の変化だ。「リーダーは、どこに向かっているのか、毎日言い聞かせないといけない。方向性が見えていれば、社員はついてくる」(パルミサーノ氏)。

 同氏は「若い人は頭が良く、希望にあふれている。未来に悲観的になったことはない」という。「新たな黄金時代は、皆さんと一緒でないと築くことはできない」として講演を締めくくった。