エリクソン・ジャパンの藤岡雅宣CTOは2012年8月30日、定例で開催している技術説明会において、「新たな無線ネットワークの展望と周波数展開に関する課題」と題し、今後の無線ネットワークの進化の方向性について解説した。

 現在の無線ネットワークは、携帯電話システムの標準化団体「3GPP」が2007年に「Release 8」として標準仕様が規定したLTEが主役と言える。LTEはその後も機能拡張が施されており、2010年には「Release 10」として(1)複数のキャリアを束ねて最大100MHz幅まで広帯域化できる「キャリアアグリゲーション」、(2)最大下り8レイヤー/上り4レイヤー/マルチユーザーにも対応した「MIMO送信技術の拡張」、(3)マクロセルとスモールセルの混在環境でシステム全体のキャパシティーを向上する「HetNet」、(4)無線を使ったバックホールリンクをサポートする「リレー伝送」などの技術を追加。

写真1●LTE-Advanced以降も、LTE-B、LTE-Xと継続的に進化
写真1●LTE-Advanced以降も、LTE-B、LTE-Xと継続的に進化
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 さらに2012年の現在、複数の基地局が協調してセル端のパフォーマンスを上げられる「CoMP」などを追加した「Release 11」の仕様が近々固まる見込みだ。Release 10から11の要素技術を含む仕様が、いわゆる「LTE-Advanced」に当たる。

 LTE-Advancedの仕様が固まる中で、実はその次に向けた議論も始まっている。基本的には継続的にLTEを進化させていく方向であり、「LTE-Advancedの次は“LTE-B”“LTE-C”…“LTE-X”と、特定のシナリオやアプリケーションをもとに機能を拡充する形になる」(藤岡CT0、写真1)という。

Release 12で注目される、ローカルエリアアクセスの拡充

写真2●Release 12に向けた話題
写真2●Release 12に向けた話題
「ローカルエリアアクセスの拡充」「デバイス間の直接通信」という二つのホットな話題が登場しているという。
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 LTE-Advancedの次の“LTE-B”に当たる「Release 12」については、そのコンセプトが徐々に見えてきているという。3GPPは2012年6月にRelease 12の要求条件や技術的な方向性を議論するワークショップを開催(関連記事)。ここでは「ローカルエリアアクセスの拡充、デバイス間の直接通信、という二つのホットな話題が出てきた」と藤岡CTOは説明する(写真2)。

 前者のローカルエリアアクセスの拡充は、屋内などローカルエリア向けの周波数帯として3GHz帯以上の高い帯域を使うことを想定。マクロエリアの中に、このようなローカルエリアを構成するスモールセル局を配置し、データトラフィックをスモールセル側にオフロードすることで全体のキャパシティーを向上する。

写真3●エリクソンによるローカルエリアアクセス拡充に向けた「Soft Cell」のコンセプト
写真3●エリクソンによるローカルエリアアクセス拡充に向けた「Soft Cell」のコンセプト
NTTドコモもほぼ同様に「ファントムセル」というコンセプトをワークショップに提案している。
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 これだけだといわゆるHetNetと同じ構成だが、Release 12以降で提案されているローカルエリアアクセスの拡充にはもう一つポイントがある。ローカルエリアを作るスモールセル局は、ユーザーデータの伝送のみに特化し、制御信号などコントロール系の機能はマクロセル側に任せてしまう点だ。エリクソンではこのようなコンセプトを“Soft Cell”と呼んでおり、マクロ側を「Anchorキャリア」、ピコ側を「Boosterキャリア」と定義している(写真3)。