東京農工大学総合メディアセンターの辰己丈夫准教授
東京農工大学総合メディアセンターの辰己丈夫准教授
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1年生のスマートフォン所有率。「2011年はスマートフォン元年。この年に大学受験をした学生を対象にした調査は今年しかできない。貴重な結果だ」(辰己氏)という
1年生のスマートフォン所有率。「2011年はスマートフォン元年。この年に大学受験をした学生を対象にした調査は今年しかできない。貴重な結果だ」(辰己氏)という
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ソフトウエアのインストール経験を問う設問の回答。スマートフォンへのインストール経験があると答えた学生は10%に過ぎなかったが「本当はもっといるはず。アプリのダウンロードがインストールに相当するという認識がないのではないか」(辰己氏)
ソフトウエアのインストール経験を問う設問の回答。スマートフォンへのインストール経験があると答えた学生は10%に過ぎなかったが「本当はもっといるはず。アプリのダウンロードがインストールに相当するという認識がないのではないか」(辰己氏)
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 2012年8月4日から開催されている教育へのコンピューター活用をテーマにした学会「2012 PCカンファレンス」では、大学生の情報リテラシーに関する調査結果が複数発表された。スマートフォンのような新しいデバイスの普及が進む一方で、基礎的なスキルや知識が身に付いていない現状がうかがえた。

 8月6日の分科会では、東京農工大学総合情報メディアセンターの辰己丈夫准教授が、同大学の1年生を対象に実施した4種類の調査の結果を発表した。スマートフォンの所有率については、68人の学生のうち、iPhoneを21%、Androidスマートフォンを22%が持っていると回答。合計43%もの学生がスマートフォンを所有していることになる。

 一方で、ICTに関する知識やスキルの習得は進んでいないという。1年生全員(876名)に、高等学校の必修科目「情報」の履修状況を聞いたところ、本来2単位必要にもかかわらず、1単位しか履修していないと答えた学生が半数にのぼった。一時的に、または常時、別の科目の内容が教えられていたという回答も数%あった。

 辰己氏が「驚くべき数字」と話すのが、タッチタイピングの習得状況。1年生の約半数はタッチタイピングができず、過去に学んだ経験もないという結果になった。「音声入力などの技術は進歩しているが、少なくとも今後10年ほどはまだキーボード入力は必要だろう。タッチタイピングができないと、入力スピードは一定のレベル以上は伸びにくい。だからタッチタイピングはとても重要だが、これほど多くの学生ができていないとは驚きだ」(辰己氏)。大学の教員は高校で学んでいるはずと考えて教えず、高校の教員は中学で学んでいるだろうと考えて教えず、といった状況が各学校で発生し、きちんと学ぶ機会のなかった学生が少なくないのだろうと推測する。

 学生が、自分のパソコンを管理するための知識も備わっていない。「Windows Update」をよく理解していると答えたのは8%に過ぎず、「あまり理解していない」「全く理解していない」を合計すると6割超にのぼった。ウイルス対策ソフトの重要性についても、同じく6割超がよく理解していなかったという。会場からも、「大学生協のオリジナルパソコンにはウイルス対策ソフトの4年分のライセンスが付いているが、わざわざ無効にしてしまう学生がいる。無防備なままフリーソフトなどをどんどんダウンロードし、パソコンが動かなくなって修理に持ち込むケースが多い。なぜウイルス対策ソフトを無効にしてはいけないかを理解していないようだ」といった生協職員の声が聞かれた。

 発表の最後に、辰己氏は「情報フルーエンシー」という言葉を紹介。情報活用能力を卒業後に自分で身に付けられるようにするために、在学中に学んでおくべき項目を示す。自分のパソコンを管理する、製品の仕組みを知るといった知識もここに含まれるという。これらは、大学生になって自分専用のパソコンを持つようになれば必要な知識だが「高校の教育では欠けている。高校のパソコンは、セットアップが終わった状態で置いてある。インストールやアップデートなどは生徒ができないようになっている」(辰己氏)。パソコン本体の仕組みや、ログイン、アカウント、インストール、ライセンスなどに関する教育の必要性を指摘した。さらにその役割を担う場として、各大学生協が主催するパソコン講座への期待を示した(関連記事)。