写真1●「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」で講演する楽天技術研究所長の森正弥氏
写真1●「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」で講演する楽天技術研究所長の森正弥氏
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写真2●拡張現実を用いた、研究中のアプリ。実店舗の商品をスマホで写すと、集積したデータに基づいた売れ行きやネット上の評判が重ねて表示される
写真2●拡張現実を用いた、研究中のアプリ。実店舗の商品をスマホで写すと、集積したデータに基づいた売れ行きやネット上の評判が重ねて表示される
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 2012年7月24日から開催されているイベント「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」で楽天技術研究所長の森正弥氏が「BigDataの実践と課題 ~ O2O、そしてその先へ」と題して講演した(写真1)。同イベントはソーシャルメディア・マーケティングやモバイルサービス開発に関する専門カンファレンスで、主要なテーマとしてビッグデータ関連の講演も用意されている。

 森氏は講演の中で、クラウドやスマホの普及により、実空間とネット空間の融合が進むことを強調、新たに生まれる“巨大空間”に向けてサービスを開発中であることを明らかにした。

 講演の冒頭で森氏は、「ビッグデータというトピックがすさまじい破壊力を持っている」と述べ、その理由を新規事業の創出につながるためとした。主にコスト削減で注目されたクラウドより、新規ビジネスの創出に結びつくビッグデータの方が大きな意味があるとの見解を示した。

ビッグデータ部に約130人が在籍

 こうしたことから楽天では2012年2月、「ビッグデータを活用するプラットフォームを構築し、楽天のオンラインサービスを改善する役割」を持ったビッグデータ部を設立、現在では約130人が在籍しているという。

 このビッグデータ部では、Apache HadoopやApache CassandraなどをはじめとするOSS(オープンソースソフトウエア)を活用して、同社の様々なサイトにおける機能、具体的にはサーチ、レコメンド、ランキング表示、オンライン広告などを開発しているという。

 森氏は、楽天では2008~2009年頃から“情報爆発”的に増え続けるデータをいかに扱うかに悩んでいたという。その後、「大規模処理基盤を構築できるクラウドおよびOSSを利用することにより、ビッグデータ活用が可能になった」。さらに、OSSを活用するだけでなく、その開発に貢献したり、自社開発したミドルウエアをOSSとして提供したりしていることにも言及した。例えば、Rubyによる分散キーバリュー型データストアである「ROMA」や、分散ファイルシステムの「LeoFS」などである。

 森氏はこうしたOSS活用の一例として「楽天プロダクトランキング」を紹介。これは何千というジャンルのランキングを刻々と更新して表示する機能で、更新頻度を高める、言い換えれば鮮度の高い情報を示すことにより、売り上げ増加に貢献することが分かったという。何千ものジャンルのランキングを時々刻々と更新することは過去には不可能だったが、現在では約70台のHadoopクラスターとROMAにより実現できている。

「ネット空間と実空間を融合させたサービスがeコマースの鍵に」

 森氏は現時点でのビッグデータ活用を説明したうえで、eコマースの今後についての見通しを披露した。クラウドおよび、来年以降に爆発的な普及が見込まれるスマートフォンを活用するシステム形態で、ネット空間と実空間を融合させたサービスが生まれていくというものだ。「これまではネット空間と実空間は分かれていたが、クラウドやスマホにより、“地続き”になりつつある。ネット空間と実空間が融合した新しい現実が構築され、その中で我々は生きるようになる」。

 既に楽天では、新たに生まれる巨大な空間を前提にしたサービスの開発に取り組んでいるという。実験段階だが、実店舗の商品をスマートフォンで写すと、その商品の購入履歴や購入者の属性、ネットでの評判などが分かりやすく可視化されるAR(拡張現実)アプリなどだ(写真2)。

 最後に森氏は、ネット空間と実店舗の購買活動を連携させたサービスを提供できるエンジニアやデータサイエンティストの獲得競争はますます激しくなるとし、依然として人材がサービス開発のカギを握ることを指摘して講演を終えた。

 日経BP社は7月24日~26日の3日間、モバイル&ソーシャルWEEK 2012(会場:六本木アカデミーヒルズ49)を開催している。