写真●IT Japan 2012で講演するレッドハット 代表取締役社長の廣川 裕司氏(写真:中根祥文)
写真●IT Japan 2012で講演するレッドハット 代表取締役社長の廣川 裕司氏(写真:中根祥文)
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 レッドハット代表取締役社長の廣川裕司氏は2012年7月6日、東京・品川プリンスホテルで日経BP社が主催したイベント「IT Japan 2012」において、「急成長するOSS(オープンソースソフトウェア)とレッドハット」と題して講演した(写真)。

 その講演の中で、日本におけるICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)の問題点は、ソフトウエアの低い競争力(遅れ)であると指摘。OSSを導入・活用することでその競争力は取り戻せるとした。

 また国内市場だけに目を向けるのではなく、グローバルな市場に通用する製品開発や技術に注力し、国際標準化で価値を生み出せる技術・人材の育成が重要とした。それによって最強のクラウドを作る国になり、日本をICT先進国に向かわせる道にできると語った。

ソフトのシェアが1%程度

 廣川氏はまず世界における日本の現状を述べた。日本の総面積は37.7万平方キロメートルで世界61位、人口は1億2750万人で世界10位。「GDP(国民総生産)は469.9兆円と、中国に抜かれはしたものの世界3位で世界の10.5%を占める。このうち100兆円がICT産業だ。ICT産業の拡大なくして日本の発展はない」という。

 ただ「GDPが世界の10.5%であるにもかかわらず、日本のICTマーケットは少しだけ縮んでいる」と指摘した。世界経済フォーラムが主催するダボス会議での世界競争力報告書における順位の低下、世界知的所有権機関(WIPO)が発表した技術革新力が20位から25位に後退したこと、将来の競争力を担う教育水準が36位に落ちたことを危惧し、「政府を含めた対策が必要」と述べた。

 その問題がどこに隠れているのかを明らかにするために日本のICT関連製品のシェアを紹介。ノートパソコンが16.9%、液晶テレビが31.2%、ディスクリート半導体が42%など、ハードウエアではまだ世界の最先端を進んでいる。

 しかし、ソフトウエアアプリケーションが1.0%、インフラとなるソフトウエア(ミドルウエアやOSなど)が1.3%と、ソフトウエアの競争力に問題があると指摘した。その理由は「長年ソフトウエアの開発者を育てていなかった」「一部を除いて開発したソフトが国際標準になっていなかった、あるいは英語化されていなかった」からだという。

オープンソースが活躍する

 次に最近のICTのトレンドに触れた。「モバイル」とそれに伴う「セキュリティ」、「ビッグデータ」「SOA(サービス指向アーキテクチャー)」「OSS」「ネットワーク」、Facebookなどの「SNS」、「BCP(事業継続計画)」「クラウド」の9つのキーワードを挙げた。

 この中で最大のトレンドはクラウドであり、「クラウドはセルラーフォン(携帯電話)やインターネットを上回る大きなパラダイムシフト(革新的な変化)だ。クラウドによってコンピュータを作らず・持たずに、好きなときに好きなだけ使える」と述べた。

 またクラウドのサービスを提供する企業(サービスプロバイダー)は「今までに考えられないスピードで新しいインフラやサービスを作らなくてはならない。それには従来の作り方では対応できない」という。「安価なハードや通信インフラなどを確保して早く作らなくてはならない。そしてその要求やコストに耐えられるソフトはまさに『オープンソース』しかない」とした。

最高のクラウドを作る国に

 このようなクラウド時代において、日本はどうあるべきかも語った。「目に見えないものだから気づきにくいが、日本ではインターネットを通じて外国のクラウドベンダーが攻めてきている」ことを認識すべきとし、またプライベートクラウドとパブリッククラウドが混在したハイブリットクラウド環境を駆使してのITの最適が重要になっているとした。

 このクラウド時代において、日本がICTの先進国に向かうには、(1)少子高齢化で縮小する国内市場ではなく、グローバル市場に通用する製品や技術に集中すること、(2)徹底した国際標準化で価値を生む技術・人材を育てること、(3)オープンソースの導入と推進でソフトウエアの遅れを一気に挽回すること、が重要であるとした。「日本はクラウドを使うだけの国になってはいけない。最強のクラウドを作る国、サービスを提供する国になるべきだ」とも述べた。

OSSの落とし穴を避ける

 OSSに関しては、100万人を超す開発者による開発力や、代表格であるLinuxの成長度、OSからミドルウエアやアプリケーション、サービスインフラにわたるカバー範囲の広さを紹介したが、その落とし穴についても触れた。安定性や信頼性、ハードウエアやソフトウエアの互換性、セキュリティ、特許抗争などの問題があり、それらを回避するために、レッドハットなどのオープンソースプロバイダーが必要だと語った。

■変更履歴
第4段落で「100億円がICT産業」としていましたが、「100兆円がICT産業」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2012/07/07 11:44]