写真●日本オラクルで代表執行役社長兼最高経営責任者を務める遠藤隆雄氏(写真:中根祥文)
写真●日本オラクルで代表執行役社長兼最高経営責任者を務める遠藤隆雄氏(写真:中根祥文)
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 「ITを適切に活用すれば、地域ごとに異なる戦略を実施できるし、現状維持ではなく事業変革のためにお金を使える」---。日本オラクルの遠藤社長は2012年7月6日、日経BP社が2012年7月4日から6日にかけて東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2012」で講演。企業が成長するための方法と、ITに求められる条件について語った。

 遠藤氏によれば、多くの経営者は、成長戦略とグローバル戦略で悩んでいる。グローバルについては、現地の担当者に任せて勝手にやらせているのが実態という。この状況を打破するためには、地域ごとに異なる戦略を立てることが必要であり、ITが重要な意味を持つ。「標準技術を採用したオープンでシンプルなITを選ぶことが重要」(遠藤氏)だ。

 例えば、グローバル戦略の例として遠藤氏は、性格が異なる二つの国を想定。一つは、GDPは伸びないが、一人当たりの消費能力が比較的高い先進国。もう一つは、急成長しているが、貧困層も多い国である。

 ここで、先進国では、顧客ごとの個別のニーズに合った製品を開発することが重要になる。一方、急成長している国では、価格が安くてそこそこの品質を持った製品を、素早く市場に投入していくことが重要になる。

事業変革への投資比率を高めよ

 遠藤氏はIT投資の内訳に触れ、「変革にもっと投資しなければならない」(遠藤氏)とした。2010年時点で、IT投資額の内訳は、既存システムの維持に64%を使っており、事業変革には16%しか使っていない。一方で、アンケートから見えた経営者の理想は「既存システムの維持に50%、事業変革に25%を投資したい」のだという。

 「経済成長の3分の2は、新興ビジネスから生まれる」(遠藤氏)。このことからも分かるように、企業には、これまでの事業を改善するだけでなく、今までやったことがないことへの挑戦が求められる。ここで、新興ビジネスに取り組むために、情報の活用が重要になるという。

 情報活用の重要性は増している。「データは爆発する」(遠藤氏)。2011年に年間1800エクサバイトだった情報の発生量は、2020年には20倍の、年間3万5000エクサバイトに達する。マクロな動向を見ても、モバイルコンピューティング、インテリジェントデバイス/センサー、ソーシャルネットワーキングなど、情報の爆発を加速する要因が多いという。

 遠藤氏は、情報を活用して事業を変革した事例として、製薬会社の独メルクを紹介した。新薬の開発のために、26カ国に点在する1万1000人の研究者が、情報を交換する。情報量は4Tバイト以上になったが、DWH(データウエアハウス)などを使うことで、欲しい情報に30秒以内でアクセスできるようになったという。

情報を一元管理し、鮮度の高いデータを活用せよ

 情報の活用が、事業を変革する。しかし、日本の経営者へのアンケートによると、BI(ビジネスインテリジェンス)が「期待通りの効果を出している」と答えた企業は、全体の3割しかいないという。一方で、米国では75%が「期待通り」と答えているという。日本においても、情報活用の精度を高める必要がある。

 情報活用で重要なポイントとして遠藤氏は、分散している情報をDWHで一元的に管理することと、生まれたてで鮮度の高いデータを扱うことの二つを挙げる。こうした国内事例として、北陸コカ・コーラを紹介した。

 北陸コカ・コーラでは、直近のデータをDWHに格納することで、販売情報が確定するまでの日程を短縮した。以前は2日後に分かる状況だったが、翌朝に分かるようになった。これにより、売れ筋商品なら1日分、その他なら3日分の在庫を削減できたという(関連記事:リアルタイムDWHへ、北陸コカ・コーラの挑戦)。

 講演の最後に遠藤氏は、今後の企業経営にはカスタマーエクスペリエンス(消費者体験)も重要であると説いた(関連記事:顧客の「エクスペリエンス」を見える化しよう)。「感動体験がリピーターを生む」(遠藤氏)。

 顧客を感動させる条件の1位(55%が回答)は「素晴らしい対応を受けたとき」であるとして、Webでの顧客対応の重要性を説いた。「嫌な対応を受けた場合、82%は、その企業との取引を止め、79%は、嫌な対応を受けたことを人に伝える」(遠藤氏)。