写真●ノンフィクション作家の立石泰則氏(写真:中根祥文)
写真●ノンフィクション作家の立石泰則氏(写真:中根祥文)
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 日本の家電メーカーは本当に崩壊の一途をたどるしかないのか。「家電メーカーは全滅する」と語っていたノンフィクション作家の立石泰則氏だが、「決して再生の道がないわけではない」という。日経BP社が2012年7月4日から6日にかけて東京・品川プリンスホテルで開催した「IT Japan 2012」に立石氏が登壇し、日本メーカーが衰退した原因と、再生への道を語った。

 まず立石氏は、「どの企業もルーツを忘れてはいけない」と話す。赤字決算を発表したばかりのソニー、パナソニック、シャープも、「赤字の原因は自社がどこから来たのかを忘れたことにある」という。

 例えばソニーは、テレビでも画質にこだわった高品質な技術を提供する企業だったにもかかわらず、ある日突然世界のトップシェアを取ると言い出した。徹底して高画質技術を追求し続けることもできたはずだが、価格で勝負をし始めたのだ。

 またパナソニックは、創業者の松下幸之助氏がユーザーの声を聞いて開発した二股ソケットに始まり、常に市場の声を聞くことで成長してきた企業。それが、薄型テレビの開発ではプラズマのみに注力し、液晶には手をつけようとしなかった。実際には液晶が欲しいという市場の声があったにもかかわらずだ。ある時同社はプラズマ市場で世界シェアの半分を確保するまでになったが、その時点でプラズマの市場は、液晶とは比べものにならないほど小さなものでしかなかった。

 一方のシャープは、オンリーワン経営を貫くことで成長した企業だ。液晶など、価値を認めてもらえない時期にもオンリーワンであることに誇りを持ち、「液晶のシャープ」と呼ばれるまでになったが、その後テレビは表示能力だけではないと考え、液晶の大型化に注力するようになった。高画質化を追求する「4K」技術の開発に取り掛かっているにもかかわらず、この技術のみを追求するという決断ができなかったのだ。

 こうした例から立石氏は、「やはり企業はどこから来たのかを明確に認識し、そのうえでどこに向かうかを考えるべきだ」とした。

新しい雇用を生み出せるのは映像技術

 では、日本の家電メーカーは今後どうすればいいのか。立石氏は、「日本の家電メーカーは素晴らしい映像技術を持っている。それを生かすべきだ」と語る。「単にリストラして利益を出しても意味がない。新しい雇用を生み出すような何かを作れば、ビジネスは回る。それができるのは映像技術ではないか」と立石氏。

 例えば立石氏は、東日本大震災の時に発生した津波を映像で見ても、「テレビでは恐怖感が十分に伝わらなかった」と指摘する。しかし、4Kの技術を持つシャープの映像を体感した同氏は「立体感や奥行き、質感が今の技術とは全く異なる。あのリアリティー感があれば、津波の恐怖ももっと伝わるのではないか」と話す。「HD画像を4Kに変換する技術を持っているのはシャープと東芝だけ。こうした技術を活用し、新しい産業を生み出す土俵を整えることが大切だ」と述べる。

 また立石氏は、そこで生み出される新しい産業について、「1社ですべてやろうとするのではなく、様々なものを組み合わせて共同でオールジャパンを作り、新しいビジネスを展開してほしい。それを政府も支援すべきだ」とした。「日本にはインフラもあり、クラウド技術も活用できる環境にある。こうした技術と映像技術は、町作りやスマートシティにも展開できる。そこで雇用が生まれ、新しい産業が誕生する」(立石氏)

 最後に立石氏は、「日本の家電メーカーは、原点に戻って自社の強みを思い起こしてほしい。そこから可能性が見えてくるはずだ。私は世界のメーカーも見てきたが、やはり日本の映像技術は素晴らしい。映像作りはこれからだ。米国の映像フォーマットに従うだけでなく、しっかりした技術を持つ日本がそれを利用しない手はない。そこに誇りを持って進んでほしい」と、家電メーカーにエールを送った。