写真●プライスウォーターハウスクーパースの内田士郎代表取締役会長(写真:中根祥文)
写真●プライスウォーターハウスクーパースの内田士郎代表取締役会長(写真:中根祥文)
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 東京・品川プリンスホテルで開催中の「IT Japan 2012」で2012年7月5日、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の内田士郎代表取締役会長は「リーダーには今、組織内に1000のアイデアを生み続ける仕組みを作る役割が求められている」と語った(写真)。「転換期を迎える日本企業のグローバル戦略」と題した講演での一幕である。

 内田会長がこのような指摘をした背景には、主に2つの現象によって日本企業が大きな転換を迫られていることがある。1つは国内の人口構成、もう1つは世界規模でみた地政学の変化である。

 前者は、日本の人口の大きなボリュームを占める団塊世代と団塊ジュニア世代に注目したもの。日本経済は団塊世代による消費が減退し始めた1990年頃から低調になった。また、ほぼ同じ時期にITとネット環境が激変したものの、日本の産業構造は大きく転換できなかった。このことがグローバル競争で日本企業が後れを取った原因と考えられる。

 そして現在の2012年は、団塊ジュニア世代が40代となり、消費のピーク時期にある。その団塊ジュニア世代が50代に突入する2022年以降は消費意欲が減少すると見込まれ、そのままの状態が続くと国内の市場環境は一段と厳しくなる可能性が高い。これを踏まえれば、「2012年から2022年は、日本が産業構造を自力で変える最後のチャンスだ」と内田会長は指摘する。

 同時に国際的な地政学も大きな転換期を迎えている。欧米の多国籍企業が力を誇った2000年代初頭とは異なり、現在は中国、ロシア、資源国などの政府系企業の存在感が高まっている。もはや米国中心の時代ではなくなり、「グローバルの意味、構造がこれまでとは違うものに変化する」(内田会長)。日本企業も当然、グローバルの意味を再考し、戦略を練り直す時期といえる。

 もっとも、その後のグローバル環境がどう変わっていくのかは現状では判然としない。例えば米中の2極体制になる可能性が考えられる一方で、アメリカ・アジア・ヨーロッパといった地域別のブロック経済になる可能性もある。

 こうしたなか、企業はどのような姿勢で臨めばよいのか。内田会長は3つの姿勢が考えられるとする。具体的には(1)変化にできるだけ早く対応する「リアクティブ型」、(2)変化を予測して準備をしておく「プロアクティブ」型、(3)自ら変化を生み出してリードする「クリエイティブ」型である。

 これらのうち最も望ましいのは(3)のクリエイティブ型だが、難易度も高い。クリエイティブ型を実践するには画期的なイノベーションを起こす必要があるからだ。1つのイノベーションが成功するまでには、1000個のアイデアが必要といわれる。だからこそ、1000個のアイデアを継続的に生み続ける仕組みを作ることがリーダーの役割だと内田会長は指摘したわけだ。