写真●「IT Japan 2012」で講演するNPO法人江戸しぐさの桐山勝理事長(写真:中根祥文)
写真●「IT Japan 2012」で講演するNPO法人江戸しぐさの桐山勝理事長(写真:中根祥文)
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 江戸時代の商人が身につけた江戸しぐさの背景にある考え方は、現在のビジネスリーダーにも大いに役立つ――NPO法人江戸しぐさの桐山勝理事長(写真)は2012年7月5日、「IT Japan 2012」(日経BP社主催)で特別講演を行い、現在のビジネスシーンにおける「江戸しぐさ」の有用性について解説した。

 桐山氏は江戸しぐさについて、江戸時代の商人がビジネスを行う際に重視した行動様式と説明した。代表的なしぐさとして、傘をさした通行人同士が狭い通路ですれ違う際に、傘を傾けてすれ違いやすくする「傘かしげ」や、混雑時にこぶし一つ分ずつ席を詰めることで多くの人が座れるようにする「こぶし腰浮かせ」などがある。いずれも相手の気持ちを汲み取って対応する仕草で、こうした行動の背景にある気遣いを身に付けることは、現在のビジネスパーソンにとってもプラスの効果が期待できると説明した。

 また、相手を思いやるという江戸しぐさの基本的な考え方は、後継者の育成にも有効という。「リーダーは相手の気持ちを汲み取って育てる役。褒めてやる気にさせ、時には厳しい言葉をかける際にも、相手への思いやりが必要」と語った。

 桐山氏は高校や大学で教鞭をとった経験から、若者のコミュニケーション能力の低下を危惧しているという。コミュニケーション能力低下の原因として、インターネットの普及で必要な情報が手軽に入手できるようになったことを挙げ、「人間の能力が伸びていないのにITが便利になり、頭を使う機会が減ったからではないか」と分析した。人生を豊かにするには、人を思いやるといったアナログな価値を理解した上で、デジタルの利便性を活用することが必要という。

 桐山氏はこのほかに、江戸時代の丁稚奉公や年季奉公といった職業訓練や、「ねずみ」「井戸の茶碗」といった落語に見られる江戸しぐさにも、現代のビジネスシーンに通用する考え方が見られると紹介した。