写真●シスコシステムズの平井康文代表取締役社長(写真:中根祥文)
写真●シスコシステムズの平井康文代表取締役社長(写真:中根祥文)
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 東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2012」で2012年7月5日、シスコシステムズの平井康文社長(写真)は「ビジネス成長戦略としてのワークスタイル変革」と題して講演した。

 平井社長は、ワークスタイルの変革が求める中、「これからの組織は、先攻後攻で攻守が変わる非同期型の“野球型”から、11人のプレーヤーがダイナミックにフォーメーションを変えながら、リアルタイムに動く“サッカー型”へ変わらなければならない。言い換えれば階層構造型から、経営学者のヘンリー・ミンツバーグが言う球体型(アドホクラシー型)の組織作りが必要」と強調。シスコ自身のワークスタイル変革の取り組みも紹介しながら、組織づくりのヒントを示し経営者に向けて多くのエールを送った。

「従来のPCベースの業務体系は終わった」

 まず平井社長は、業務環境の変化を表すデータとしてシスコが世界の20代の学生やビジネスパーソンを対象に実施したアンケートの結果を紹介した。例えば、食事や水、空気と同様にインターネットが重要と答えたのは3人に1人、生産性向上のためにはオフィスは必要ではないと答えたのは3人に2人、個人のライフスタイルに合わせた働きかたを希望するのは2人に1人など、ビジネスパーソンの意識が大きく変わりつつある現状を示した。こうしたデータから平井社長は「従来のPCベースの業務体系は終わりつつある」とし、これからの経営、ICTで重要になるキーワードとして(1)モバイル、(2)ソーシャル、(3)バーチャル、(4)ビジュアル、の4つを挙げた。

 (1)のモバイルは、スマホやタブレットPCを生かし、経営という観点で労働力のモビリティを高めるべきという視点、(2)のソーシャルは、SNSだけではなく、企業の価値として、財務的価値以上に顧客との関係性が重要になるという指摘だ。(3)のバーチャルとは、企業間でのバーチャルな連携などが今後はますます重要になるという視点、(4)のビジュアルは、コミュニケーションの見える化が求められるという指摘である。平井社長はこれらすべてネットワークの力で支えているとしICTの重要性を強調した。
 
 このようなワークスタイル変革の必要性に対して、シスコ自身も取り組んでいるという。ここで目指したのが冒頭の平井社長の言葉にあるような、組織が能動的に動くような“サッカー型”の組織だ。平井社長はこうした新しいワークスタイルを実現する上での重要な要素として、場所と時間を越えたコミュニケーションを可能にする「映像の力」、PCだけでなくiPhoneやAndroidなど多様なOSに対応した「マルチOS・マルチデバイス環境」、外出先からセキュアに企業内のリソースにアクセスできる「セキュアなモバイルアクセス」を挙げた。

 そしてこれらを実現するソリューション群として、高品質なテレビ会議環境である「Cisco TelePresence」、マルチOSに対応したコラボレーションツールである「Cisco Jabber」、利用者の職務、利用場所、利用時間などポリシーベースでアクセス制御できる「Cisco AnyConnect」といった製品を紹介。実際、シスコ社内でもこれらのツールを活用している点をビデオで示したほか、これらの取り組みは2011年度の日本経営品質賞を受賞するなど、外部の評価も得ていることを強調した。

「“ワークライフバランス”ではなく“ライフワークインテグレーション”」

 平井社長のプレゼンには、経営の視点で様々な示唆に富む発言もあった。その一つが「“ワークライフバランス”は死語。これから“ライフワークインテグレーション”」という指摘だ。平井社長は「“ライフ”よりも“ワーク”が先に来ている点がまず問題。さらには“バランス”という言葉は、どちらかが大きくなると、どちらかが小さくなる」と説明。「私たちは“ライフワークインテグレーション”と言うようになった」と続ける。
 
 さらに「グローバル規模のダイナミズムの中、日本企業は日本独特の行動様式を悲観する必要はない。これをテコにして尊重することが重要」(平井社長)とエールを送る。平井社長は「日本企業は現場主義など、過去の良い例を忘れて、間違った欧米型のやり方を追いかけていないか」と指摘。「欧米型の左脳型の経営は重要。しかし右脳型のヒューマンタッチの経営がより求められるのではないか」(平井社長)と、日本ならではの強みを生かす必要性も説いた。