2012年6月26日から、オランダのアムステルダムでMicrosoftによる技術者向けカンファレンス「TechEd Europe 2012」が開催された(写真1写真2)。イベントではWindows 8やWindows Server 2012をはじめとする多くのMicrosoft関連技術の最新情報が提供された。中でも注目度の高い製品のひとつがARM版のWindows 8である「Windows RT」だ。

 TechEd EuropeおよびNorth AmericaでWindows RT関連のセッションを担当している米Microsoftのシニアプロダクトマーケティングマネージャー榊原洋氏に、Windows RTの現状を聞いた。

写真1●オランダで開催されたTechEd Europe 2012
写真1●オランダで開催されたTechEd Europe 2012
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写真2●TechEd Europe内の展示会「TechExpo」でのMicrosoftの展示
写真2●TechEd Europe内の展示会「TechExpo」でのMicrosoftの展示
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Windows RTの開発は順調、メンテナンスの負荷は軽減

 Windows RTがインストールされたタブレットPCは台北で開催された「COMPUTEX TAIPEI 2012」でも展示されていた(関連記事:年末の出荷に向け盛り上がるWindows 8)。だが、一般来場者が容易に触れられる状態ではなかった。この点について、「Windows RTはまだ一般公開できる状態ではないものの、開発は順調に進んでおり、時期が来れば公開できると考えている」(榊原氏)とのことだ。

 Windows 8タブレットに対するWindows RTタブレットの優位性として「ARMプロセッサーを搭載していることで消費電力が低く、バッテリー駆動時間が長い」(榊原氏)という点を挙げた。具体的な事例として、航空会社が長距離のフライトにおける乗客向けサービスとして導入を検討しているという。

 また、Windows RTはWindows 8とは異なり、長期的に安定して使えるというメリットがあるとのこと。Windows RTでは通常のWindowsアプリのようにシステムファイルやレジストリに影響を与えるアプリをインストールすることができない。これが幸いして、「Windows OSをクリーンインストールするようなメンテナンスが不要」(榊原氏)であり、運用コストが低いという。

 Windows RTのメインとなるターゲット層はコンシューマーとのこと。だが、既存のWindowsアプリが動かない点や企業内の管理体制に適合しない部分があるといったトレードオフを許容できれば、企業内で活用できる可能性も十分にあるという。ビジネス環境におけるWindows RTの可能性については、榊原氏によるTechEdのセッション動画も参考にしてほしい(該当サイト)。

専用のOfficeを用意、既存アプリはリモートデスクトップで利用

 Windows RTでは、x86向けのWindows 8と同様にMetroのタイルを使ったスタート画面がある(写真3)。こうしたMetro UIだけでなくデスクトップも利用できる。あまり詳細が語られることのないWindows RTのデスクトップについて聞いてみると、「タスクバーやエクスプローラーはWindows 8とほぼ同じ。コントロールパネルによる詳細な設定なども可能」(榊原氏)とのことだ。また、Windowsにはメモ帳や電卓など標準のアプリもインストールされているが、これらもほとんどがWindows 8と同様に存在しているという。

 それ以外にデスクトップで利用できるアプリとしては、Microsoft Office(Office 2013 RT)とInternet Explorer 10がある(写真4)。従来のx86/x64向けデスクトップアプリは一切使用できず、移植する手段も用意されていない。この点については「必要に応じてリモートデスクトップで別のx86/x64 Windowsのアプリを実行する『RemoteApp』の使用も検討してほしい」(榊原氏)とのことだ。

写真3●Windows RTのスタート画面
写真3●Windows RTのスタート画面
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写真4●Windows RT上で動作するOffice 2013 RT(Excel)
写真4●Windows RT上で動作するOffice 2013 RT(Excel)
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 Windows RTタブレットで周辺機器を活用するためのデバイスドライバとしては、汎用的なクラスドライバの提供にとどまる見込みだ。榊原氏自身もWindows RTタブレットをデモなどに活用しているが、「USBメモリーやBluetoothキーボードなどを利用する上で不便を感じたことはない」(榊原氏)とのこと。しかしプリンタやスキャナの独自ユーティリティなどは対応できない可能性が高いという。Windows RTとWindows Phoneを併用するといったシナリオについては、今後の課題とのことだ。

 Windows RTをターゲットとしたアプリ開発については、Metroスタイルアプリが前提となる。他にも技術的な可能性として、Office 2013 RTのVBAやWindows Scripting Host、.NET Frameworkランタイムによるマネージコードの実行などを指摘してみたが、現時点では明確な回答はできないとのことだ。

 Windows RT上では、デスクトップアプリの制限から、Metroスタイルアプリの比重が大きくなるとみられる。しかし現時点では、MetroスタイルアプリのWindows Storeへの登録はそれほど容易ではない。Windows Phoneのアプリにも審査はあるが、Metroスタイルアプリでは適切なUI設計がされているかどうか、より厳密な審査を通過しなければならない。

 この点について榊原氏は、「もちろんアプリ数も重要」とは前置きしつつも、「Windows Phoneとはステージが異なる」として、Windows Storeの立ち上げにあたっては個々のアプリの品質を重視していく姿勢を示した。