金融庁企業会計審議会は2012年6月27日、第27回監査部会を開催。不正な会計処理に対応した監査基準の見直しについて議論した。同部会で臨時委員を務める八田進二 青山学院大学大学院教授は「企業不正に対する監査人の取り組みと課題」について説明。基準を整備する際に「会計リスクなどに対応した監査の基準(不正対応基準)を整備し、監査基準と一体のものとして適用することも考えられる」と意見を述べた。

 監査部会は2012年5月30日に開催した第26回部会から、「会計不正等に対応した監査基準の検討」を進めている。オリンパスなどの不正会計事件で、監査制度が有効に機能していなかったとの指摘があった。この声に対応して、監査基準の見直しをはじめとする監査のあり方を再検討するのが狙いだ。

 八田氏は会計不正に対する米国の取り組みの歴史や不正問題に対する日本の状況を説明したうえで、今後の部会で検討したほうがよいと思われる項目を「今後の見直しの視点」として挙げた。主な内容は(1)監査人の役割の再確認、(2)基準の見直し方、(3)監査関係者の連携強化、である。

 (1)では再確認する監査人の役割の一つとして、「不正に起因する財務諸表の虚偽記載の有無を検証する」ことを挙げる。

 (2)では監査基準の改訂のほかに、監査基準に収まらない場合は「不正対応基準」のように別の基準として適用する方向性や、「監査人が行うべき監査手続きを包括的に整理して、基準として示す」やり方を指摘。

 (3)では循環取引のような複数の企業による共謀に対処するために、監査人・監査法人間で連携するやり方などについて検討していくことを挙げた。

 専門委員を務める林隆敏 関西学院大学大学院教授は、「PCAOBのリスク評価・対応監査基準」として、米PCAOB(公開会社監督委員会)が規定する監査基準第8~15号と日本の監査基準を比較して説明。米国のほうが「不正に関する職業的懐疑心の発揮」について具体的な事項を示している、不正リスクに明確に対応する実証手続きの実施を強調しているなど、不正への対応という観点では詳細に規定している点を示した。

 監査基準とは別に新たな基準を作る方向性に関して、委員から「適用対象は財務諸表監査に限らず、四半期レビューや内部統制監査などに及ぶ可能性がある。そうなると、他の基準の見直しも必要になるのではないか」との意見が出た。部会長を務める脇田良一 名古屋経済大学大学院教授は、この意見に対して「とても大きなテーマになる」と語り、今後の検討課題としていく姿勢を示した。

 監査関係者の連携強化については、「守秘義務があり困難」とする意見がある一方で、「守秘義務は監査人と企業との契約による。契約を結ぶ際に『監査人は他社の監査人に対して、必要があれば情報を提供できる』旨を盛り込むことで解決できるのでは」との意見も出た。金融庁側は「循環取引については、次回に実際の例を挙げて説明したい」と述べた。

 第26回部会で金融庁が出した「金融不正等に対応した監査基準の検討について(案)」では、夏までに部会を3回程度開催して意見を聴取して検討項目を整理し、1年をめどに検討していく方針を出している。次回の監査部会も今回と同様に、委員による意見説明が中心になるとみられる。