写真●特定非営利活動法人エルピーアイジャパンの成井弦理事長
写真●特定非営利活動法人エルピーアイジャパンの成井弦理事長
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 「IT業界のビジネスは差別化で成り立つ。クローズドなソフトウエアを使っていたら儲からない。過去10年間で売上を伸ばした会社は全てOSS(オープンソース)で差別化を図った」---。特定非営利活動法人エルピーアイジャパンの成井弦理事長(写真)は2012年6月15日、ICT関連の総合展示会「Interop Tokyo 2012」で講演し、OSSが生んだ新たなビジネスモデルを、事例を挙げて紹介した。

 冒頭で成井氏は、「知的所有権を放棄したほうが売り上げが増える」と結論づけた。さらに、「最大の貢献者が最大の受益者になる」というOSSの世界のからくりについて言及した。代表例としてインターネットを挙げ、米国が知的所有権を放棄したために現在のインターネットが世界標準となり、結果として米国が最大のリターンを得ている、とした。

 最大の貢献者が最大の受益者になる例は、成功を収めたOSSにおいて顕著であると成井氏は説明する。例えば、米IBMは、Linux開発への貢献度が高いので、Linux関連事業で大きな利益を上げている。また、韓国のサムスン電子とLG電子は、Android開発への貢献度が高いので、Android関連事業で大きな利益を上げている。

「貢献の競争」に立脚したビジネスモデルが台頭

 最大の貢献者が最大の受益者になると、貢献の競争が起こる。事実、OSSの世界では、貢献の競争が日常的に行われている。成井氏によれば、Linuxは、OS開発において、世界中の会社や技術者が貢献の競争で勝ち抜いた集大成である。こうしたOSSの仕組みがベースとなり、新たなビジネスモデルがいくつも登場している、とした。

 OSSが生んだビジネスモデルの代表例が、無料で使えるOSSを土台として、その上でお金を稼ぐ「Fee on Free」である。成井氏は、いくつかの例を挙げて説明した。例えば、米Googleなどの検索エンジンサイトは、無料で使えるが、広告で利益を上げる。米Appleのアプリ「iTunes U」を使えば世界中の大学の無料講座を見ることができるが、米Appleの端末を買う必要がある。ゲームの世界では、アイテム課金が普及している。

 OSSのビジネスではまた、これまでとは異なり「ソフトパワー」が台頭するという。ソフトパワーとは、軍事力や経済力などを表す「ハードパワー」に対比する言葉であり、「武力やお金を使うことなく相手を思い通りに動かす力」のこと。この例として成井氏は、米Appleのiアプリを挙げる。SDK(ソフトウエア開発キット)をばらまいてマーケットを用意するだけで、開発者がアプリを開発してくれる。

 売り手が保証やサービスの範囲を自由に設定できる点も、OSSビジネスに特有の特徴であるという。ソフトウエアの中身がすべて分かるので、アプリケーションの動作を開発ベンダーが保証できる、というわけだ。例えば、富士通が東京証券取引所のarrowhead(アローヘッド)を開発できているのは、Linuxを使っているからだという。

5年後にはPostgreSQLがデファクトスタンダードに

 このように、OSSなら、技術力を身につけさえすれば、すべて自社で対応できるようになる。この例として成井氏は、住友電工が自社内のデータベースをすべてPostgreSQLにした例を紹介した。

 また、PostgreSQLについては、5年後には日本のデファクトスタンダードになっているとの見通しを示した。実際に、NTTグループは社内のデータベースをPostgreSQLにしているほか、PostgreSQLのクラスター機能を開発するなど、貢献度も高いという。