写真1●Open Networking Foundation」のダン・ピット エグゼクティブ・ディレクター
写真1●Open Networking Foundation」のダン・ピット エグゼクティブ・ディレクター
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写真2●OpenFlowひいてはSDNの普及によってネットワークの世界は変わる
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写真3●OpenFlowを採用したネットワークの論理構成
写真3●OpenFlowを採用したネットワークの論理構成
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写真4●OpenFlowプロトコル標準化の展望
写真4●OpenFlowプロトコル標準化の展望
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 2012年6月11日、OpenFlowプロトコルの標準化団体「Open Networking Foundation」(ONF)のダン・ピット エグゼクティブ・ディレクター(写真1)が来日し、記者説明会を開催した。この説明会でピット氏は、SDN(Software Defined Network)やOpenFlowに関するこれまでの取り組みと最新動向を解説した。

 SDNはネットワークをソフトウエアによって制御するコンセプトの総称で、OpenFlowプロトコルはSDNを実現するための制御技術の一つだ。ピット氏はSDNの普及によって、ネットワークの世界が大きく変わると述べた(写真2)。

 例えばベンダーごとに独自に開発したASICではなく、安価な汎用スイッチチップ(写真2では「Marchant silicon」となっている)の活用範囲が広まる。また、ハードウエアのスイッチやアプライアンスの代わりに、オープンなソフトウエアに移行する。さらに、従来のネットワークプロトコルに代わってAPIの利用が台頭することで、ネットワーキングの世界はソフトウエアの世界に近くなっていくとした。

 「これによってネットワークの制御権は、機器ベンダーから企業ユーザーやネットワークオペレーターの手に移ることになるだろう。ネットワークのコストは下がり、技術の進化の仕方や、企業内での管理方法も変わる。われわれは将来の新しいネットワークはみなSDNベースになると信じている」(ピット氏)。

 OpenFlowのネットワークは、OpenFlowコントローラーという制御用ノードと、OpenFlowスイッチで構成する。経路制御など複雑な計算処理をOpenFlowコントローラーが担い、スイッチはOpenFlowコントローラーからの指示を受けてフレーム転送など単純な処理を実行する。OpenFlowコントローラーとOpenFlowスイッチはハードウエアを利用してもいいし、ソフトウエアべースの仮想スイッチなどを利用してもかまわない。

ユーザー主体で標準化を進めている

 OpenFlowコントローラーとOpenFlowスイッチの間で情報をやりとりするプロトコルがOpenFlowプロトコルで、ONFはこの部分の標準化を進めている(写真3)。標準化活動の特徴は、「エンタープライズやサービスプロバイダーといった、ネットワークのユーザー主導で進められていること」(ピット氏)。ONFの理事となっている企業には、ネットワーク機器ベンダーは入っていない。これは、従来のネットワークプロトコルがスイッチやルーターなどの機器ベンダー主導で定められていたのとは対照的だという。

 OpenFlowコントローラーの上には、セキュリティ、トラフィック制御、ポリシー設定、電力などのエネルギー消費量の削減、遅延防止やパフォーマンスの改善など、こちらもユーザーがニーズに応じて開発した様々な機能をアプリケーションとして実装することができる。OpenFlowコントローラーとこうしたアプリケーションとの間を接続するAPIについては、各社のOpenFlowコントローラー向けに独自のAPIが開発されており、すでに10種類以上が世の中に存在する乱立状態だ。しかし、ONFでは「この部分のAPIに関しては、アプリケーションがネットワークに求める要件としてどのようなものがあるのか整理を進めてはいるが、まだ標準化するかどうかのコミットメントをしていない」(ピット氏)とした。

 続いて、ピット氏はOpenFlowプロトコルの成り立ちと、今後の標準化の展望についても説明した。OpenFlowの研究は2002年ごろ、スタンフォード大学の研究から始まり、カリフォルニア大学バークレー校などに広まった。やがてネットワーク業界から注目を集め、NECやドイツテレコムなどの企業が、スタンフォード大学に4年間スタッフを常駐させるなどして実験に参加。研究者とともにプロトコルの草案を作っていったという。2011年3月以降は、「研究から商用化を目指す」(ピット氏)ためにONFを立ち上げ、そちらで標準化作業を担うことになった。

 現在のOpenFlowプロトコルはバージョン1.3である。これまで、OpenFlowは数カ月単位で急速にメジャーバージョンアップを繰り返してきたが、「2012年はバージョン1.3以降、メジャーなアップデートはしない」(ピット氏)方針だ。これは製品を開発したり、導入したりする企業に向けて、いったん安定したバージョンのプロトコルを提供するためだという。2012年中は、導入企業からのフィードバックを受け付け、バグフィックスだけを進める。「ただし、これはOpenFlowのフレームフォワーディング向けのプロトコルの話だ。コンフィグレーション用のプロトコルや、テストプログラムの標準化に関しては、引き続き積極的に標準化を進めていく」(ピット)氏。

 質疑応答では、ONFにおける知的財産(Intellectual Property)の取り扱いポリシーはどうなっているのかという質問が飛び出した。ピット氏によると、「現状では、ONFによる知的財産の取り扱いは、OpenFlowプロトコルに関連したものに限られている。ONFに新たに参加したメンバー企業は、関連する知的財産をすべてのメンバー企業に共有されるプールに入れることになる」という。ONFのプールに入った知的財産は、他のすべてのメンバーにロイヤリティフリーで提供される。ただし、知的財産権はあくまでもメンバー企業が所有しており、ONFのものになるわけではない。

 ONFは参加メンバー企業とともに、6月12日から始まるInterop Tokyo 2012の「OpenFlow ShowCase」に参加する。会場では複数の企業のOpenFlowコントローラーやOpenFlowスイッチが連携した、合計8種類のデモ展示を見ることができるという。