NTTドコモの中村武宏 無線アクセス開発部無線アクセス方式担当部長は2012年6月1日、「ワイヤレスジャパン2012」にて講演し、携帯電話システムの標準化団体「3GPP」におけるLTE-Advancedの標準化動向や、同社が進めているLTE-Advancedの実証実験の様子などを紹介した。中村担当部長は、3GPPの無線アクセスの仕様を定めているTSG RANの議長も務めている。
3GPPにおける仕様の策定は、W-CDMAの仕様を規定した「Release 99」に始まり、2007年にはLTEの仕様を規定した「Release 8」、2009年にはLTEの仕様を拡張した「Release 9」、そして2010年にはLTE-Advancedの仕様として「Release 10」がリリースされている。中村担当部長は「LTE-Advancedではまったく新しいシステムを入れるのかとよく聞かれるが、それは違う」と説明。LTE-Advancedは、LTEの機能を包含し新機能を追加したものであり、LTE-AdvancedのセルでLTE Release 8端末は通信可能であり、LTEのセルでLTE-Advanced端末も通信できる。完全にバックワードコンパチビリティが取られていると強調した。
3GPP Release 10で追加されたLTE-Advancedの主要技術としては、(1)複数のキャリアを束ねて最大100MHz幅まで広帯域化できる「キャリアアグリゲーション」、(2)最大下り8レイヤー/上り4レイヤー/マルチユーザーにも対応した「MIMO送信技術の拡張」、(3)マクロセルとスモールセルの混在環境(HetNet)における「セル間干渉除去技術」(eICIC)、(4)無線を使ったバックホールリンクをサポートする「リレー伝送」がある(図1)。
中村担当部長は、ドコモで実施しているLTE-Advancedの無線伝送実験を紹介した。神奈川県相模原市の屋外で実施した伝送実験では、下りキャリアに3.9GHz帯の100MHz幅(20MHz幅×5のキャリアアグリゲーション)、上りキャリアに3.6GHz帯の40MHz幅、2×2のMIMO構成で、基地局のセルの中を測定車が走行。市街地の環境においても下り600Mビット/秒、上り150Mビット/秒以上のピークスループットが出る様子を見せた(図2)。
ドコモR&Dセンターの屋内で実施した伝送実験では、下りリンクに4×2構成のマルチユーザーMIMOを採用。マルチユーザーMIMOでは、非対称となっているMIMOのリンクを複数の無線機で振り分けられる。こちらの伝送実験では、二つの無線機が、それぞれ500Mビット/秒のピークスループットを記録。合計で1Gビット/秒以上のスループットが出ることを確認できたという。
またHetNetの研究も進めており、ドコモが開発したHetNetのシミュレーターについても紹介した。マクロセルの中にピコセルを配置し、多数の端末が存在する状況をシミュレート。マクロセルとピコセル間の干渉を除去するために、周波数ドメイン上でマクロセルがある周波数幅で電波を発進するのを止め、それによってピコセルのパフォーマンスが上がり、結果的に全体のキャパシティーが向上する様子などを見せた(図3)。
Release 12では「ローカルエリアの機能拡張が重要に」
中村担当部長は、Release 10以降の3GPPの標準化の動向についても説明した。Release 10のさらなる発展型として現在「Release 11」の議論が進んでおり、2012年9月の仕様凍結を目指して動いているという。Release 11は基本的にはLTE-Advancedの拡張であり、主な追加技術として(1)キャリアアグリゲーションの拡張、(2)複数の基地局が協調してセル端のパフォーマンスを上げられる「CoMP」、(3)コントロールチャネルの拡張(E-PDCCH)などを挙げた(図4)。
さらにRelease 11の次の「Release 12」に向けた動きも近々始まるという。2012年6月には3GPPにてRelease 12についてのワークショップが開催予定で、ここで要求条件、技術的な方向性が議論する計画という。
ドコモとしては、Release 12の要求条件として(1)2020年くらいのトラフィック量を想定した大容量化、(2)多様なトラフィックタイプのサポート(スマートフォンの制御信号やM2Mなど)、(3)10Gビット/秒クラスの体感スループット、(4)セル端のパフォーマンスを引き上げることによるユーザースループットの公平化、などを考えているという。
またRelease 12での機能拡張として、自宅などの「ローカルエリア」における拡張が重要ではないかとした(図5)。多くのトラフィックを生んでいるのは主にローカルエリアであり、このようなエリアではスモールセルが求められる。4Gシステム向けに追加で用意される3G~4G帯は、伝搬特性の悪い高い周波数帯ではあるが、このようなローカルエリアには適しているとも言える。中村担当部長は「ワイドエリアとローカルエリアでシステムへの要求条件が変わってきている。システム全体のバランスを取りながら、ローカルエリアに特化した拡張を考えていきたい」とした。