ソフトバンクモバイルは2012年5月30日、愛知県稲沢市の木曽川河川敷で、係留気球を用いた携帯電話向け無線中継システムを公開した(写真1)。
気球を活用した中継局は、東日本大震災後の復旧作業で苦労した経験から生まれたアイデア。「とても表に出せないような大失敗もあった。試行錯誤を繰り返しながら1年以上かけてようやく実現できた」(取締役専務執行役員兼CTOで技術統括を務める宮川潤一氏、写真2)。
実験中の気球無線中継システムは、親機の中継元基地局と子機の気球中継局で構成する(写真3)。気球中継局は二つのアンテナを搭載し、親機と子機の通信に3.3GHz帯、子機と携帯電話機の通信には2.1GHz帯の周波数を使う。
使用帯域幅はともに5MHz幅。親機の中継元基地局(移動無線車)から先は有線で携帯電話網につなぐ。今回、中継局には無線LANの基地局も搭載し、ユーザーの大容量通信や中継局の監視にも使えるようにした。
気球は空中での姿勢が安定する扁平型を採用。球形は風の抵抗が大きくなるほか、飛行船型は風向に合わせて方向が変わってしまう問題があるという。さらに気球を3本(実験では突風でも耐えられるように6本にしてある)のロープで地上につなぎとめる係留気球とすることで回転を防ぎ、位置と高度を安定させる。気球自体はナイロン製の二重構造になっており、係留ロープには「ダイニーマ」と呼ぶ強度の高い繊維素材を使っているという。
気球に充てんしている気体はヘリウムガス。1回の充てんで最低1、2カ月間持ち、充てん費用も20万円程度で済むという。水素ガスは爆発の危険性があるので採用しなかった。気球内の無線中継局には地上の無線中継車から有線の電源ケーブルで給電する(写真4)。無線中継車に燃料がある限り連続稼働できる。
気球の高度は地上から100メートル程度。郊外地で半径3キロメートル程度、開放地では半径5キロメートル程度のエリアをカバーできるという。今回の実験では5MHz幅×1を使うので携帯電話の収容数(同時接続数)は250前後だが、実運用では5MHz幅×4を使えるので1000台程度を収容できる見込み。設営には最低4、5人が必要で半日かかる。気球の上げ下げには最低20分程度を要する。風が強い場合はケーブルへの負荷を避けるためにゆっくり上げ下げするのでさらに時間がかかる。