写真●KDDIによる「リンクアグリゲーション無線技術」のデモ 3GおよびWiMAX回線を同時に使うことで(写真右)、3G回線単独利用時(写真左)と比べて2倍以上のスループットが出ている。
写真●KDDIによる「リンクアグリゲーション無線技術」のデモ 3GおよびWiMAX回線を同時に使うことで(写真右)、3G回線単独利用時(写真左)と比べて2倍以上のスループットが出ている。
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 2012年5月30日から6月1日までの3日間、モバイル通信関連の展示会イベント「ワイヤレスジャパン 2012」が東京ビッグサイトで開催されている。同会場内のKDDIブースでは、複数の異なる無線通信回線を束ねて、高速かつ安定的な通信を実現するための技術「リンクアグリゲーション無線技術」のデモを披露し、来場者の注目を集めていた。

 同技術は、KDDI研究所が総務省の委託を受けて研究している技術成果の一部。デモでは、3GおよびWiMAXでの通信に対応した同社のAndroid端末「GALAXY SII WiMAX」(ISW11SC)を2台用意し、片方の端末は3G通信のみ、もう片方は3GとWiMAXを同時に使った状態でファイルのダウンロードを実施。リンクアグリゲーション無線技術を使うことで2倍以上のスループットを出せる様子を見せていた(写真)。

 「リンクアグリゲーション」と聞くと、イーサネットで複数の物理リンクを束ねて帯域を増やしたり冗長化を図ったりするための技術としてIEEEで標準化されている同名技術(IEEE802.3ad)を思い浮かべるかもしれない。KDDIのリンクアグリゲーション無線技術も目的とするところは基本的に同じだが、ネットワークのプロトコル階層(レイヤー)から見ると根本的に仕組みが異なっている。

 同一レイヤー(L2)内で完結するイーサネットのそれと異なり、KDDIのリンクアグリゲーション無線技術では、回線ごとに独立してTCP/IPで通信する形をとる。それぞれ異なるIPアドレスを持ち、TCPレベルでやりとりするデータ(ストリーム)も完全に別。コンテンツをダウンロードする際は、アプリ側で全体を細かくブロック分割するなどして、ブロック単位で回線を割り振ってダウンロードを進めていくイメージになるという。

 このため、ダウンロード全体の進行をコントロールしたり、ダウンロードしたデータの完全性を確保するのはネットワークスタックではなくアプリ側の役割になる。どういう条件(例えば電波状況など)でどの回線を使うかといったポリシーもアプリ側で決めることになるが、現状では「スループットを細かく見て、どの回線に割り振るかを調整している」(KDDI)という。

 こうした技術を見ると、いかにもAndroid OSにソースコードレベルで手を入れるなどして作り込んでいるように思えるが、驚いたことにデモで使っているAndroid端末は何も手を加えていない“素の状態”であるという。OSが標準で用意しているAPIだけを使い、Google Playなどからダウンロードできる「通常のAndroidアプリ」としてリンクアグリゲーション無線技術を実装しているというわけだ。

 KDDIによれば、商用化の予定などは一切未定とのことだが、ブース内で取材対応した説明員(KDDI研究所の研究員)は「基本的な技術自体は完成しており、あとはゴーサインが出るかどうか次第。そう遠くない時期に何らかの形でユーザーが利用できるようにしたい」と意気込みを語っていた。