写真1●データ集約装置がセンサーと直接通信する領域(出典:富士通研究所)
写真1●データ集約装置がセンサーと直接通信する領域(出典:富士通研究所)
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写真2●データ集約装置と直接通信しないセンサーの送信電力(出典:富士通研究所)
写真2●データ集約装置と直接通信しないセンサーの送信電力(出典:富士通研究所)
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写真3●データ集約装置と直接通信するセンサーの送信電力(出典:富士通研究所)
写真3●データ集約装置と直接通信するセンサーの送信電力(出典:富士通研究所)
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 富士通研究所は2012年5月29日、無線センサーネットワークを効率化する技術として、センサーの送信電力を必要最小限に抑えることでパケット衝突を減らす技術を開発したと発表した。これにより、同社のシミュレーションでは、同じ受信成功率(95%)のまま、収集データ量(センサーの数)を2.6倍に増やすことができたとしている。

 前提となる無線センサーネットワークは、無線で通信する個々のセンサー(ノード)同士が連携して自動的に通信経路を構成するアドホック型のネットワークである。各種の無線規格/プロトコルが存在する。センサーの情報は、データ集約装置に集約して利用する。この際、センサーからデータ集約装置への通信は、直接通信だけでなく、場合によっては、ほかのセンサーを中継した経路が選ばれる。

 現状、無線センサーネットワークにおけるセンサーは、ほかのセンサーがパケットを送信していないことを確認した上でパケットを送信する。なぜなら、通信(複数のパケットで構成)が終わっていない段階で、同時に複数のセンサーからのパケットを受信する“パケット衝突”が起こると、エラーが発生するからである。パケット衝突が頻繁に起こっているネットワークは、スループットが低下し、同時に使えるセンサーの数が限られてしまう。

 ところが、現状の方法だけでは不十分である。センサーがほかのセンサーの送信状況を調べる、というだけでは、どうしても複数のセンサーのパケットが同時に届く領域が存在してしまうからだ(写真1)。特に、センサーの情報を集約するデータ集約装置の周辺には、各センサーからの送信電波が集中する。

 今回富士通研究所が開発した技術は、データ集約装置が受信するパケットに着目し、ここでのパケット衝突を最小化する。具体的には、各センサーのパケットが届いてしまう範囲を、必要最小限な範囲へと狭める。これにより、データ集約装置の周辺において、複数のセンサーのパケットが同時に届いてしまう領域が減り、パケット衝突が発生しにくくなる。

センサーの送信出力を必要最小限に抑える

 富士通研究所が開発したのは、各センサーがパケットを送信する強さ(パケットが届く範囲)を決定するアルゴリズムだ。センサーの種類を、データ集約装置からの距離が近いセンサーと、距離が遠いセンサーの2種類に分けて、それぞれについて送信出力を調整するロジックを設計した。

 データ集約装置からの距離が近いか遠いかは、データ集約装置からの距離がセンサーの最大通信距離(無線規格で決まる)の半分以内の領域にあるかどうかで決まる(写真1)。センサーとデータ集約装置の距離は、センサーに届くデータ集約装置の信号の強度から、センサー自身が計算する。

 データ集約装置からの距離が遠いセンサーは、データ集約装置と直接の通信はせず、ほかのセンサーを経由する。つまり、データ集約装置にパケットが届かないように送信出力を抑える(写真2)。これにより、データ集約装置における、このセンサー由来のパケット衝突を100%回避できる。

 一方、データ集約装置からの距離が近いセンサーは、データ集約装置との間で直接通信する。ただし、必要最小限の送信出力に抑える(写真3)。具体的には、できるだけ送信出力を低く抑えつつ、データ集約装置が直接通信する領域の全体にパケットが届くようにする。