「EvernoteのAPI連携のうち3分の1は日本から。最も売れているアプリは日本製」(米Evernote CEO Phil Libin氏)---米Evernoteは2012年5月17日、都内で事業戦略説明を開催した。Libin氏は、IPO(新規株式公開)についての方針や日本市場へのコミットについて語った。
2013年末に“IPO ready”に、ただし実施はベストな時期に
5月3日にベンチャーキャピタルから投資を受けた際に企業価値が10億ドルと算定されたこともあり(関連記事)、EvernoteのIPOに対する関心が高まっている。IPOについてLibin氏は「2013年末までに“IPO ready”にする。ただし実際のIPOは、ベストな時期に実施する。今後2~3年間はIPOにベストな時期ではない」(Libin氏)とする。しばらくは企業のビジネスを固める時期にするというのがEvernoteの方針だ。「現在はイノベーションのためにリスクを取るのにベストな時期だ。企業が小さすぎる時期にリスクを取るのは難しい。IPO後も市場の反応を考えれば大きなリスクは取れない。今、様々なことを実験し、あるいは企業を買収し、最適なビジネスモデルを作り上げる」とLibin氏は語る。
日本市場をさらに重視
Evernoteはもともと日本のユーザーの比率が高い。現在日本のユーザーは米国の31%、ヨーロッパの20%に次ぐ18%だ。今後もさらに日本を重視していくとLibin氏は語る。このほど新しくエバーノートジャパンのカントリーマネージャーを任命した。元頓智ドットの井上健氏である。
早くからNTTドコモグループから出資も受け提携関係にある。2009年、2010年にグループのベンチャーキャピタルであるDOCOMO CapitalがEvernoteに出資。2012年5月にはNTTドコモ本体からも出資を受けている。「Evernoteの企業価値は最初にドコモグループから出資を受けた時に比べ35倍になった」(Libin氏)。その関係からドコモのスマートフォンユーザーにEvernoteのプレミアサービスも提供している。
楽天 代表取締役社長 三木谷浩史氏からもこのほど出資を受けた。「三木谷氏には、日本でのビジネス展開だけでなく、国際展開についても貴重なアドバイスをいただいた。CEOとしての考え方という面でも影響を受けた」とLibin氏は言う。
日本の開発者は最もアクティブ
また日本の開発者は世界的に見ても最もアクティブであるという。「EvernoteのAPI利用の3分の1が日本。Evernote利用アプリのトップセラーは、日本で開発されたもの。最もアクティブなコミュニティは日本のコミュニティだ」(Libin氏)。世界で売れている日本発のEvernote利用アプリとして、Libin氏は「FastEver」などを挙げる。
アプリ開発促進のため同社ではコンテスト「Evernote Devcup」を実施している。賞金総額は10万ドルで、最終候補者はサンフランシスコに招待する。応募促進イベントとして2012年5月に東京、大阪、札幌で「Evernote Devcup Meetup」を開催する。
日本発のアプリがトップセラーになった理由を、Libin氏は「プロダクトがヒットするための条件が変わったからだ」と語る。「5年前、10年前、プロダクトが売れるための最も重要な要因は販売力や宣伝力であり、プロダクトそのものではなかった。しかしインターネットにより世界がフラットになり、App Storeができて誰でもプロダクトを世界に届けられるようになった。成功する要因は、プロダクトのクオリティになった。日本のプロダクトの品質は高く、デザインが優れている。日本の優れたハードウエアとの統合も進んでいる。そういったプロダクトが世界のユーザーの手に届くようになったことがヒットの理由だ」(Libin氏)。
「Video Notes」や「for Business」を提供へ
今後の新サービスとして計画しているのは、動画の記録やビジネス向けサービスだ。
同日、Evernote for Android 4.0を発表したが、動画記録機能「Video Notes」を、ドコモユーザー専用に提供する。「Video Notesは現在では日本のドコモユーザーにのみ提供している。高品質なネットワーク、検証のためにキャリアとの緊密な関係が必要だったからだ。ただし、今後数カ月の間に他の国やキャリアにも提供していきたい」(Libin氏)。
また2012年第3四半期には「Evernote for Business」の提供を予定している。ユーザー管理機能やセキュリティ確保のためのアクセス権限設定機能などを備え、ユーザーサポートサービスとともに提供する方針だ。