写真●社長を退任する山下徹氏(左)と新たに就く岩本敏男氏(右)
写真●社長を退任する山下徹氏(左)と新たに就く岩本敏男氏(右)
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 NTTデータは2012年5月11日、本誌既報の通り、山下徹社長(64、写真左)の後任に岩本敏男副社長(59、写真右)が6月20日付で就く人事を発表した。同日開催予定の株主総会で正式決定する。山下氏は取締役相談役に退く。

 岩本氏は「社会や経済、技術はものすごい勢いで変化を続けている。そうした変化に(会社や事業モデルを)適応させていきたい。全力を尽くし、(ITサービス企業として)グローバルトップ5入りを目指す」と述べた。

 山下氏は後任の岩本氏について、「IT業界に精通し、実行力もある。(国内部門を率いてきたが)海外事情にも精通しており、グローバル展開を加速するうえで欠かせない人物だ」と紹介した。

「グローバル化加速、新市場創出、技術革新に取り組む」と岩本氏

 同社は、2013年3月期から4カ年の中期経営計画で「グローバルトップ5入りの実現」「2016年3月期にEPS(1株当たり純利益)を(2012年3月期比85%増の)2万円に引き上げる」を掲げている。この達成に向けて、岩本氏は三つの目標を掲げた。グローバル化の加速、日本での新しい市場の創出、ソフト開発の技術革新だ。

 このうち二つ目の市場創出について、国内市場は成長が頭打ちといわれるなかでも「世の中の変化に応じて、ITを使って新しい価値を提供できるようにすれば、まだまだビジネスは伸ばせるはずだ」と岩本氏は強調した。

 岩本氏は1953年長野県生まれ。東京大学工学部卒業後、1976年に日本電信電話公社(現NTT)に入社した。2004年に取締役就任。決済ソリューション事業本部長や金融ビジネス事業本部長などを歴任した。2009年からは代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長として、金融・公共部門を率いた。

 日本銀行の決済システム(日銀ネット)など、金融分野を中心に大規模システムを手掛けた経験を持つ。1990年代には中国人民銀行の決済システムの構築プロジェクトを推進するなど、中国ビジネスに携わった経験もある。

「M&Aによって売り上げの拡大を目指してきた」と山下氏

 今回で社長退任となる山下氏は2007年6月の就任以来、5年にわたりグローバル化などによる事業拡大を牽引してきた。米キーンや独サークエント、独アイテリジェンスなど欧米IT企業の大型買収を相次ぎ成功させ、海外売上高を就任直前(2007年3月期)の156億円から13倍強の2083億円(2012年3月期)まで増やし、海外売上比率を同1.5%から同16.6%に高めた。

 山下氏は5年間を振り返り、「リーマンショックや大規模災害、欧州危機などに直面したが、それでも5年連続の増収を続けることができた」と語った。「就任時点で18期連続増収が続いており、前任の(浜口友一)社長から『まさか途切れることはないよね』とプレッシャーをかけられていた」と明かし、安堵の表情を見せると同時に、次期社長の岩本氏にプレッシャーをかけた。

 山下氏は5年前の社長交代会見では、「顧客に付加価値を提供する仕事を増やし、売り上げよりも利益を拡大したい」と抱負を述べていた(関連記事)。その言葉通り、営業利益を2007年3月期の902億円から2009年3月期には985億円まで引き上げたが、リーマンショックなどによる影響でその後は2期連続の減益となった。2012年3月期の営業利益は前期比2.7%増と巻き返したが、それでも804億円にとどまった。

 「就任時は売り上げよりも利益を重視していたはずだが」との記者の問いに、山下氏は「経済環境が大きく変化した。リーマン・ショック後の不況をチャンスと捉え、M&A(合併・買収)によって売り上げの拡大を目指す方針に変えた結果だ」と答えた。