「スマートフォンは、イベントや新製品レビューなどで“スペック”の競争で描かれることが多い。スペックで優れていれば、本当に勝てるのか」。2012年5月10日、東京ビッグサイトで開催中の「スマートフォン&モバイルEXPO春」の専門セミナーでこう問い掛けたのは山下計画の山下哲也氏だ。

 同氏は、NTTドコモでコンテンツ開発支援、NECやモトローラでは携帯電話のシステム開発と標準化に携わった経験などを基に、スマートフォン全盛の時代にメーカーやネット企業、通信事業者が競争戦略上考えるべき視点を語った。

 講演テーマはスマートフォンだが、同氏が持ち出したのは第二次世界大戦における日本海軍の「ゼロ戦(零式艦上戦闘機)」だった(写真1)。最先端技術を駆使したにもかかわらずゼロ戦が負けてしまったのは、米軍の戦闘機が頑強で、なおかつ大量生産できることを前提に作っていたためだったという分析を紹介。「米軍機は多少撃たれても、戻ってこられた。米国は、戦闘機は代替がきくがパイロットは補充に時間がかかることを分かっていた。彼らの設計思想は、とにかく勝つことを考えていた」とする。同じことが、スマートフォン競争にも言えないかという問い掛けである。

写真1●勝敗の本質を問う山下氏
写真1●勝敗の本質を問う山下氏
[画像のクリックで拡大表示]

「最高のユーザー体験の提供」で一貫するアップル

 それでは、スマートフォン関係者はどうすればよいのか。その分析に山下氏が用いたのが、縦軸をスケール(規模)、横軸を形のあるなしにした4象限のグラフだ(図1)。ここに、スマートフォンを構成する半導体・部品、製造、ネットワーク、OS、サービスを配置し、それぞれの進化と相互作用を分析。そのうえで、プレイヤー別に進むべき方向性を示した。

図1●スケール(規模)と形の有無によって分類した4象限
図1●スケール(規模)と形の有無によって分類した4象限
[画像のクリックで拡大表示]

 構成要素については、現時点での性能や製品動向を紹介したうえで、山下氏が注目している動きを織り交ぜて解説した。例えば、スマートフォンに多数搭載されているセンサーの中では、特に画像関係のものに注目しているという。ゲーム機向けの「Kinect」のような画像認識や、撮像から3Dモデリングしてくれるサービスなど、用途の広がりが期待できるからだ。表示装置での注目はディスプレイそのものにタッチ入力機能を持たせたインセル型ディスプレイ。本体の薄型化に寄与する。

 インターネットでは、プロトコルの進化が関心の的という。HTML5に用意される、全二重通信を実現するWebSocketプロトコルや、サービス単位でプロトコルや通信径路をダイナミックに選択できるOpenFlowなどである。ネットワークの輻輳(ふくそう)を軽減する一助になるという視点だ。