ソフトバンクグループがNTT東西の「ひかり電話」に対抗したIP電話サービスの提供に向けて準備を進めていることが分かった。「03」などで始まる「0AB~J番号」に対応し、使用中の電話番号をそのまま使えるようにする。ソフトバンクBBが現在個人向けに提供する「Yahoo! BB 光 with フレッツ」の利用者向けに早ければ年内にもサービスを始め、ひかり電話の月525円より安くする方向で検討している。

 NTT東西のフレッツ光の契約数は昨年12月末時点で1631万件。このうち、ひかり電話には1347万件が加入しており、NTT東西の独壇場となっている。ソフトバンクは割安IP電話をフックに契約数の拡大と契約当たり月間平均収入(ARPU)の底上げを狙う。利用者はIP電話サービスの選択肢が広がり、NTT東西とソフトバンクの競争が進めば料金の低廉化につながる可能性もある。

 ソフトバンクはNTT東西の光回線を借りて2004年から自前サービスを展開してきたが、採算が合わず2009年に事実上の撤退。現在は、ほかのインターネット接続事業者(ISP)と同様の立場でフレッツ光の代理販売事業を手がける。

 ADSLから光への移行で2005~2007年に500万件超あった「Yahoo! BB ADSL」の接続回線数は273万7000件(昨年12月末時点)に減少(図1)。代わりにADSL解約者などを取り込むことでYahoo! BB 光 with フレッツの契約数を143万7000件(昨年12月末時点)まで伸ばしている。だがARPUはYahoo! BB ADSLの3580円に対してYahoo! BB 光 with フレッツは1670円と低く、IP電話などの付加サービス拡充で収益の減少傾向に歯止めをかけたい考えだ。

図1●Yahoo! BB ADSLの接続回線数の推移
図1●Yahoo! BB ADSLの接続回線数の推移
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 一方でソフトバンクは光回線を安く調達するため、NTT東西に対して1分岐貸しを求めてきた。ただ総務省の審議会は3月に見送りを決定(関連記事)。ソフトバンクは別途、「1分岐単位の接続の申し込み拒否は優越的地位の濫用に当たる」などとして昨年にNTT東西を提訴(関連記事)して現在も係争中だが、業界では1分岐貸しの実現は難しいとの見方が一般的だ。そこで今度は、IP電話でNTTの牙城の切り崩しを図る。

独自の仕組みを用いて品質確保

 現状の計画ではソフトバンクBBがソフトバンクテレコムの呼制御(SIP)サーバーを使ってサービスを提供する。0AB~J番号の適用に当たっては呼損率やR値(総合品質)、パケット転送の遅延や揺らぎ、損失率などで厳しい条件が求められるが、既に達成できるメドが立っているという。

 緊急通報や災害時の優先電話を優先的に取り扱う仕組みも入れる。ただNTT東西がひかり電話で実施している音声パケットの優先制御や帯域制御の仕組みがなく、同じことを実現するためにはNTT東西のNGN網の改修などが必要となって費用と時間がかかる。そこで独自の仕組みを用いて輻輳(ふくそう)時も安定品質を確保できる技術を総務省に提案しており、総務省の委員会で認められることがサービス提供の前提になるという。