写真●データ活用の啓蒙の苦労などについて語り合ったエム・データの小口日出彦取締役(左)、ホットリンクの内山幸樹代表取締役社長(中)、ルグランの泉浩人代表取締役共同CEO(右)
写真●データ活用の啓蒙の苦労などについて語り合ったエム・データの小口日出彦取締役(左)、ホットリンクの内山幸樹代表取締役社長(中)、ルグランの泉浩人代表取締役共同CEO(右)
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 ビッグデータの活用戦略を話し合うパネルディスカッションが2012年4月23日開かれ、ネットマーケティング関連会社など3社が本音をぶつけ合った。これはネットマーケティングのコンサルティング会社、ルグランが主催した「『i love data』開設記念セミナー」の一部。司会はルグランの泉浩人代表取締役共同CEOが務め、パネリストとして、テレビ放送の情報を独自にテキストデータベース化して提供しているエム・データの小口日出彦取締役、ソーシャルメディア分析ツール「クチコミ@係長」を提供するホットリンクの内山幸樹代表取締役社長が参加した。

「分析結果を活用できる人」も不足している

 まず、米グーグル幹部が「次の10年でセクシーな仕事は統計専門家だ」と発言したとされている件に触れつつ、「そのような実感は伴っているか」と泉氏がパネリストに質問した。小口氏は「まだデータの価値を認識できていない人が多いし、認識できていても、もっと大きな価値だと認識する人が増えてほしい」と答えた。内山氏は「分析ができる人だけでなく、分析結果を活用できる人も増えていかないと、日本の場合は難しい」と指摘した。
 
 分析結果をうまく活用しようとするには、時間がかかるということについても顧客の理解を得ていく必要があると小口氏はいう。「まず分析対象の商品の良しあしを判断する際に、何と比べるべきか、ということをしっかり決めておかなければならない。つまり、分析対象の商品が『どのようなポジションなのか』を定義するのに3カ月かかる。次に『分析を通じて何をしたいのか』を決めるのに3カ月。それを経てようやく『商品が良い方向に向かっているか悪い方向に向かっているのか』を判断できる」と解説した。

 内山氏は、ツールやサービスを提供する事業者が「自ら顧客と同じ事業領域に飛び込んでしまう、ということも検討していくべきだ」と指摘。その典型例として、「2ちゃんねる」の監視サービスを手がけていたガーラが、分析力を生かしてソーシャルゲーム事業に参入した例を挙げた。内山氏が経営するホットリンクも、ソーシャルメディアの分析に基づいて金融相場関連の情報を提供する「ホットスコープ」という子会社を4月に設立したばかりだ。

「経験と勘」は事業領域を広げる際に失敗を生みやすい

 続いて泉氏は、データ予測の精度が高い場合でも、「『勘と経験』で人間が予測できているのだから、データ予測はいらない」と反発されるケースが海外でもあるといわれることに触れた。

 これを受けて小口氏は「勘と経験は確かに当たるものだ」としたうえで、「長年手がけた事業領域で勘を頼りにするのはいい。しかし、事業領域を広げる際にもその勘と経験に基づく判断を過信して適用し、事業に失敗する、というパターンはビジネスの世界でこれまで何度も繰り返されてきたことだ」と指摘し、勘に基づく判断を、経験の浅い分野でも頼りにしようとする経営者に警告を発した。

 内山氏はデータ予測の報告会で、予測結果を否定された苦い経験を打ち明けた。「ある出版社で、ジャンル別の雑誌の売れ行きを予測してほしいと依頼されて引き受けたことがある。しかしその報告会で、幹部に『この予測結果はおれの勘と違う』と否定されてしまった。『勘とデータ予測が違うからこそ意味がある』という捉え方もできたはずだ」と振り返った。

「熱意」で導入を説得せよ

 最後に、会場内の聞き手からは「データ予測のツールなどを導入しようと経営者を口説くにはどうしたらいいと思うか」という質問が出た。

 小口氏は「端的にいうと、鍵は売り込む人の『人間力』だ」とした。「どれだけデータの分析に情熱をもって取り組み、確信を抱き、使ってほしいと本気で思っているか。ほかのジャンルの商品を売り込む場合と、この点に関しては特に変わりない」とアドバイスした。

 泉氏は、欧米のネットマーケティング関連のカンファレンスにおける見聞を振り返りつつ、これは欧米にもある普遍的な悩みだと話した。「欧米のほうが、『まずはスモールスタートから始めなさい』など、やり方は多少、議論が進んでいる。とはいえ、『テストすることに投資をしなさい』というメッセージもよく聞く。そうした発想を経営者に持ってほしいといわれているのは、欧米企業の現場も日本企業の現場と同じような悩みを抱えているからではないか」とし、データ活用に消極的な経営者の存在は、日本企業だけの問題ではなさそうだ、との見解を示した。

 なお、パネルディスカッションのほか、三氏がそれぞれ行った講演内容については、近日中に、ルグランが立ち上げたサイト「i love data」上で、まとめを公開するという。