写真●東京海上日動システムズ ITサービス本部 上級エキスパートの村野剛太氏
写真●東京海上日動システムズ ITサービス本部 上級エキスパートの村野剛太氏
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 「システム基盤の仮想化は、従来のユーザーとベンダーの関係に大きな変化をもたらした」---。2012年4月23日、都内でユーザー企業向けITイベント「仮想化フォーラム 2012」が開催された。キーノートに東京海上日動システムズ ITサービス本部 上級エキスパートの村野剛太氏(写真)が登壇。同社のデスクトップ仮想化およびサーバー仮想化の事例を紹介した。

 同社は、2004年に東京海上と日動火災のシステムグループ3社が合併して発足した。早期から業務のIT化を推進し、数多くのITシステムを有する保険業大手のシステム子会社同士の合併。そのために、仮想化に取り組む以前の同社内には、約3万台の社内端末、2000台以上のサーバーで構築された140ものシステム基盤が存在したという。

 村野氏は、「3万台の社内端末のセキュリティ対策、ハードウエア保守は、IT管理者にとって大きな負担だった」と当時を振り返る。情報セキュリティ対策にかかわる管理者のモニタリング工数は年々増加。さらに、2004年の合併当時に大量導入したハードウエアが老朽化するにつれて、障害発生率が年々拡大していた。

 セキュリティ対策工数と運用管理コストの削減を目的に、同社では社内端末のデスクトップ仮想化を実施した。社内端末をシンクライアント端末へ置き換え、ユーザーデータ、OS、ミドルウエアをデータセンターの仮想PCサーバーへ集約した。その効果は絶大で、「社員をPCの不具合やデータ管理から開放し、運用管理者をインシデント対応やセキュリティ対策から開放した」(村野氏)。

 また、140のシステム基盤についても、「サーバーはおよそ7年のサイクルでサポートが切れるため、そのたびに莫大なコストが発生していた」(村野氏)という。サポート切れによってハードウエアを入れ替えると、その上で稼働するOSのバージョンアップが必要となり、ミドルウエアやパッケージの刷新が必要となる。ここで発生するアプリケーションの改修やテストに、多大なコストがかかっていた。

 サーバーの“サポート切れ地獄”から脱却するために、同社は、2000台のサーバーを各々のサポート切れのタイミングで仮想化し、同社データセンター内に構築したプライベートクラウドへ移行した。プライベートクラウドは、運営を外部委託するもの、自社運営のものの2種類を構築。システムごとの要件に応じて、どちらのクラウドへ移行するかを選定した。

 同社では、従来もシステム運用業務の一部を外部委託していたが、「内部と外部の業務の切り分けはあいまいだった」(村野氏)。今回構築した2種類のクラウドでは、外部委託クラウドは完全にベンダーに運用をまかせ、自社運用クラウドでは調達から運用まですべて社内で行うこととした。この切り分けによって、自社運用、外部運用の両方のクラウドで運用コストが削減されたという。「自社クラウドでは要件に合致した最安値のハードを調達するなどでコストが削減された。一方、外部クラウドの運用もベンダーに丸投げしたことで、ベンダーが得意なツールを自由に定できるなどの理由からコスト削減につながった」(村野氏)。

 最後に村野氏は、「仮想化は、ビジネスを変えるという一面もあるが、IT現場の構造やユーザー企業とベンダーの関係、ITコスト構造を大きく変える手段でもある」と述べ、講演を締めくくった。