写真●「ブランドジャパン2012」で講演中のカルロス・ゴーン社長(写真撮影:菊池一郎)
写真●「ブランドジャパン2012」で講演中のカルロス・ゴーン社長(写真撮影:菊池一郎)
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 日産自動車のカルロス・ゴーン社長は2012年4月20日、「ブランドジャパン2012」(日経BPコンサルティング主催)で「From Monozukuri to Kotozukuri」と題して、ブランド戦略などについて講演・対談した。

 ゴーン社長はブランドを高める要因として、「Monozukuri(モノ作り)」に加えて「Kotozukuri(事作り=ストーリー性)」が大切であることを強調。ストーリー性を高める必要性やその戦略について持論を語った。ストーリー性とは商品の宣伝や販促を超えて、開発プロセスや顧客体験などを訴えることで消費者の印象や信頼を高める取り組みを指す。

 ストーリー性が大切さを増している背景は、メディアと消費者の変化だと指摘した。かつてはテレビや新聞など情報伝達は限られたメディアが発信機能を持ち、受け手は先進国など巨大な消費市場だった。だが、現在はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やYouTube、検索エンジン「グーグル」などに多様化しており、さらに受け手が新興国の若者らにも広がっている。

双方向メディアを通じてきちんと声を聞く

 多様な双方向メディアの発達により消費者からの反応や意見などのフィードバックが早まっているとしたうえで、「プラス面だけではなく、マイナス面にも目を向けなければならない」と話した。アラブ諸国の民主化運動にSNSなどネットが威力を発揮したことを挙げつつ、マイナス面に対処するには、「発信だけではなく、きちんと声を聞くことが重要だ」と主張した。特に日産は経営上、新興国市場の開拓を強化しており、SNSの効用を重要視している。

 さらにSNSの特徴として、企業と消費者の間だけではなく、消費者同士が「体験共有」できることを挙げて、世界各地にいる日産の電気自動車「リーフ」の購入者が、乗り心地や使い方について意見交換するなどの新しい動きを紹介した。またインドで行った新車発売のキャンペーンにおいて、その制作過程をYouTubeで公開したところ現地の若者層で大きな話題になったエピソードを語った。

ストーリーを選び編集し発信するプロセスが大切

 講演に続いて、丸の内ブランドフォーラムの片平秀貴氏と対談。ゴーン社長は日産ブランドの定義について「Excitement & Innovation For Everybody」と表現。世界のすべての人々に技術革新を伴った商品で感性に訴える姿勢を強調した。製品開発においても、デザイナーやエンジニアらすべてがこの概念に基づいて、個々の商品を開発し、特徴を出しているという。

 ブランドにおけるストーリー性の重要性については、自身の日産再建を単行本と漫画にした体験から「漫画の方がよく売れた。なぜならシンプルだから。伝達チャネルをよく考えなければならない」と振り返り、ストーリー性とは内容と伝達チャネルが一体になっているものだと解説した。

 そして画期的なストーリーは、ゴーン社長や日産社内だけにあるのではなくどんな会社にもあるとして、「それを選んで、編集して、発信するプロセスが大切。KotozukuriもMonozukuriと同じように『プロセス管理』に要諦がある」と秘訣を明かした。

 また、ストーリー性に基づくブランド強化は、商品の適正価格での販売と、販売モメンタム(売れ行きがいいこと)と相乗効果を生み、消費者からのクレディビリティー(信頼)を高めるとした。

 ただし若い世代は消費行動が多様化しており、「かつては欲しいものはクルマかテレビだったが、今では携帯電話もiPhoneもある」ため、クルマの購買に結びつけるには相当の工夫がいるという。

危機の時こそヒーローが生まれる

 また対談では、2011年の東日本大震災後にゴーン社長が福島県のいわき工場を訪れて従業員を励ました話題に触れて、「危機の時こそ、力を発揮して主導権を持つヒーローが現場から生まれる」と従業員のモチベーションの高さについて語った。

 ゴーン社長は日経情報ストラテジーのインタビューでも、いわき工場訪問が、世界中の日産従業員の一体感を高めた点を強調している(関連記事:カルロス・ゴーン氏が一番大切にしていること )。

■変更履歴
第2段落で「Kotozukuri」のスペルが誤っていました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2012/4/23 20:20]